>  今週のトピックス >  No.1397
厚労省が推す「介護給付適正化プログラム」
〜要介護認定の現場にかかるプレッシャー〜
●  「いかに介護給付の無駄を省くか」
  今年の2月19日、厚生労働省内において、全国市町村の介護保険・高齢者保健福祉担当課長を対象とした会議が開かれた。改正介護保険制度の本格施行からまもなく1年が経過するとともに、07年度予算案の審議が大詰めを迎えるこの時期、国の厚生行政が発するメッセージを読み取るうえで重要な機会である。
  当日配布された資料には、さまざまな項目が羅列されているが、おおむね目立つのは「介護給付の適正化」に関する点、つまり「いかに介護給付の無駄を省くか」である。
  冒頭には、08年度から本格施行が目指されている「介護給付適正化プログラム」の概要を見ることができる。大きくは3つの柱から成り立っており、

(1)要介護認定の適正化
(2)ケアマネジメントなどの適正化
(3)介護サービス事業者に対する指導・監査などの適切な実施

となっている。
●  介護報酬の不正請求と要介護認定審査会の問題点
  昨今、ニュースなどで大きく取り上げられるのが、(3)に関連した「介護報酬の不正請求」にかかる問題である。会議当日に示されたデータによれば、基準違反や不正請求などの悪質行為に対して事業所の介護保険指定取消が行われたケースは、2000年の介護保険スタート以降05年度までに409件にのぼる。また、これらの事業所に対する介護報酬の返還請求額は累計で55億円に達した(ただし、実際に返還された金額はその半分以下)。
  具体的な事例としては、架空のサービス提供や、時間・回数の水増しによって介護報酬を不正に引き出すというものだ。もちろん、こうした悪質なケースはより厳しく取り締まるべきであり、介護保険制度の持続を可能にするうえでも大きなポイントになる施策である。
  だが、同じく掲げられたほかの項目の中の、特に(1)に関しては、悪質事例の摘発強化と同列に推し進められることについて違和感を覚えざるを得ない。
  (1)に関して会議資料では「一次判定から二次判定に至る過程での“軽重度変更率”」が持ち出されている。つまり、コンピュータによる一次判定を受けて要介護認定審査会での二次判定を行う際、一次判定よりも軽くなったり重くなったりするケースがどれくらいの割合で発生しているかというものだ。
  厚労省が問題にしているのは、一次判定で非該当もしくは要支援1の結果が出たケースに対し、重度変更率がほかの軽重度比率に比べて極端に高いという点である。ちなみに「要支援1」だったケースの重度変更率は34.5%、「非該当」のケースに至っては重度変更率が71.9%に達している。ほかの軽重度変更率が20〜30%である点と比べると、確かに突出していると認めざるを得ない。
  厚労省はこの点を指摘したうえで、「結果的に非該当になったとしても、必要な場合には特定高齢者施策(将来的に要介護になるリスクが高い人に対して、地域支援事業における介護予防サービスを提供するというもの)が受けられることを介護認定審査会によく説明する」よう市町村に要請している。(加えて、今週のトピックスNo.1373でも指摘したとおり、特定高齢者の該当基準を大幅に緩和することで、非該当→特定高齢者施策への流れを加速させるという対策も打ち出された。やはり、重度変更率の抑制をにらんだ施策といえる)
●  揺らぐ特定高齢者施策への信頼
  だが、要介護認定審査会のメンバーともなれば、特定高齢者施策がどのようなものであるかは百も承知のはず。むしろ、「この人が非該当になってしまった場合、特定高齢者施策で生活の質が保てるのか」という点を問題視するがゆえに、重度変更率の高さに結びついていると考えるのが自然であろう。
  特定高齢者施策の要となる地域包括支援センターでは、その業務の過酷さから介護予防に主に携わる保健師などが「うつ」などによって続々と離職している現状がある。こうした状況の中で、特定高齢者施策への信頼が大きく揺らいでいる点にこそ大胆にメスを入れていくべきではないだろうか。
  今回の会議における通達が、市町村と要介護認定審査会の間に無用なあつれきを呼び、制度運営自体に混乱が生じないかという懸念がある。それでなくても、介護保険改正以降、「要介護認定の現場がギスギスし、ときには怒鳴りあいのような状況になる」という声をたびたび聞くことがある。今、何が起きているのかを現場レベルで査証すべきではないか。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2007.03.05
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