>  今週のトピックス >  No.572
サラリーマン医療費3割負担の迷走
〜垣間見えてくる「意外な落とし所〜
  サラリーマンの医療費負担アップが迷走している。与党・自民党の支持母体である日本医師会が、負担増の凍結を要請し、すでに凍結法案を提出している野党への支持くら替えも辞さないという強い姿勢を打ち出した。歯科医師会、薬剤師会、看護協会と共同して声明を発表し、これに伴い、与党内からも公然と見直し論が吹き出した。
  サラリーマンの医療費負担が2割から3割になるのは、今年の4月からだ。与党が強行採決までして決着をつけた「痛みの改革」が、スタート直前になって、こともあろうにそのおひざ元から揺らいでいるのはどういうことか。この問題、サラリーマンの負担増という一面だけでは事の次第がなかなか見えてこない。
  迷走の発端は、昨年11月26日にさかのぼる。日本医師会の坪井栄孝会長が定例記者会見において、3割負担の実施凍結を求める宣言を発した。それまでも日本医師会は3割負担に「反対」の姿勢を示していたが、表立って宣言を発するといった行動は控えてきた。
  そもそも与党の強行採決は7月。坪井会長の宣言は11月。この間に何があったのだろうか。
  坪井宣言のきっかけになったのは、医家市長会が発した「健保制度の改善等を要求する声明」だ。この中で、健保改正に伴う国民の負担増に真っ向から反対を唱え、坪井会長の宣言を引き出したともいえる。ちなみに医家市長会というのは、全国の医師である市長が集まった会員12名の組織である。
  市長の集まりで連想するのは、国保運営との絡みだ。
  今週のトピックス541で触れたように、高齢者医療の改革案として厚生労働省は2案併記を打ち出している。一つは、若年加入者の多い医療保険が高齢加入者の多い医療保険を財政支援する「助け合い方式」。もう一つは、75歳以上を対象とした新たな医療保険を設ける「独立保険方式」。後者の独立保険方式について市町村は、国保財政の悪化を懸念して反対の立場をとっている。「連想する」と前述したのは、このことからだ。
  一方、日本医師会は早くから独立保険方式を提言しているが、厚生労働省案が打ち出す「公費負担5割・高齢者負担1割」に難色を示している。
  つまり、公費負担の割合を伸ばすという目標に向け、医師会側の長い攻防が続いているといっていい。医家市長会側も国保財政の安定を目指すうえで、高齢者医療の公費投入をいかに増やすかは至上命題のはず。両者の共同戦線は、むしろ高齢者医療を真のターゲットにしているとした方がわかりやすい。
  もし「3割負担凍結」が現実のものとなれば、予算を組み替えなければならず、その瞬間小泉政権は崩壊する。選挙を間近に控えて、与党も大きな影響を被るはずだ。果たして日本医師会がそこまで腹をくくっているのか、どうもしっくりこない。
  もともと厚生労働省は、サラリーマンの医療費負担3割と高齢者医療制度の創設をワンセットで進めようとしており、表向きは「3割負担」が駆け引きの道具になっていても、実の攻防は「高齢者医療制度」の方にあると見れば、「高齢者医療の公費負担増」といった意外な所で決着がつく可能性がある。こう考えるのは、うがちすぎだろうか。
(医療・福祉ジャーナリスト 田中 元)
2003.02.25
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