>  今週のトピックス >  No.622
ハートビル法改正と障害者支援事業の後退
〜本当の意味でのバリアフリーとは何か〜
●公共性の高い建築物についてバリアフリーを義務付け
  昨年7月、バリアフリー社会への一里塚ともいえる「ハートビル法」が8年ぶりに改正され、今年4月から施行された。
  このハートビル法、正式名称は「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の促進に関する法律」といい、公共性の高い建築物に関してバリアフリー対応を義務付けるというものだ。誕生したのは障害者プランが策定される2年前で、当時としては「画期的な法律」という声もあった。
  だが、建築主に課せられるのがすべて努力義務であるなど、実効性に乏しい面があったことは否めない。近年、日本国内でスポーツの世界大会や政財界の国際会議が頻繁に開催されるようになり、その都度公共の場におけるバリアフリーの後進性が指摘されてきた。
  今回の改正では、すでに努力義務を課せられている公共建築物(病院や劇場、集会場、百貨店、ホテルなど)、あるいは特に高齢者や障害者が円滑に利用できるようにすることが必要な建築物(盲・聾学校や老人ホームなど)について特別特定建築物としての指定を行い、はっきりと「適合義務」を打ち出している。これは、基準に適合していない対象建築物について、建築基準法の建築確認対象法令を適用するというものである。
  つまり、違反した建築物に対しては、所轄の官庁から施工停止や是正の命令が出されるというわけで、極めて強い執行力を持った法律へと生まれ変わったことになる。
  この法改正に合わせて、国土交通省はバリアフリー建築のためのガイドラインの改定も行った。その内容は、改定前に比べてより細部まで規定し、具体事例や専門家の意見まで附則するなど、見違えるほど充実した内容になっている。このガイドラインを眺める限りでは、わが国も成熟したバリアフリー社会へと踏み出した印象を与えてくれる。
●補助金の減少で国全体の福祉が後退する
  一方で、広義のバリアフリーという点に関して、むしろ後退してしまうのではと思わせるトピックが存在する。今年4月からスタートした障害者支援費制度(今週のトピックス556)に合わせて、障害者に対する相談事業への国庫補助金が廃止されたことに関してだ。
  言うまでもなく、障害者が地域で暮らしていくためには、その支援の入口となる相談事業がいかに身近で、かつ手厚いものであるかが大きなカギとなる。いわば私たちの日常に張り巡らされたさまざまな障壁を乗り越えるためのバリアフリー施策の一環といっていい。
  それが今回の補助金廃止によって、大幅な後退の危機にさらされている。現に、市町村障害者支援事業全国連絡協議会の調査によれば、全国市町村の3分の1は支援事業の予算を減額する方針であるという。
  そもそもバリアフリー政策の理念というのは、大阪府の「福祉のまちづくり条例」をはじめ、地方自治体が先鞭を付けてきた。地元住民に近い存在という点では当然のことだが、国の政策は明らかに地方の後追いとなっている。そのバリアフリーの先駆者である地方の動きを縛ることは、国全体の福祉行政の歩みを遅らせる危険をはらんでいる。
  ハード面のバリアフリー化さえ進めればよいと思っているわけではないだろうが、わが国の福祉政策はバランス感覚を欠いているとしか思われない。
(医療・福祉ジャーナリスト 田中 元)
2003.05.20
前のページにもどる
ページトップへ