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社長借入金にかかる相続税、軽減する方法は?
ケース
  酒販売業のA社の社長は、80歳に手が届こうかというのに今も現場の第一線で活躍しています。しかし最近は将来の相続のことが気になりはじめました。社長個人が会社に貸し付けている資金(以下、「社長借入金」)に相続税がかかると聞き、不安になったのです。
社長 「この酒屋を個人事業から会社組織に変更したときに発生した社長借入金なんじゃが、これに相続税がかかるって本当なのか?」
税理士 「はい。社長借入金とは、社長の側からみると『会社への貸付金』という資産となりますから、その帳簿価額全額が相続財産となります」
社長 「そうなのか。でも実際には、この社長借入金を返してもらう予定はないんじゃ。それなのに税金がかかるというのは、納得いかんなぁ。良い方法はないかな」
税理士 「社長、『DES』という方法をご存じですか?」
社長 「聞いたことないな。なんかの頭文字か?」
税理士 「ええ。『デット・エクイティ・スワップ』の略で、負債である社長借入金を資本金に振り替えるということです」
社長 「つまり、どういうことになるのじゃ」
税理士 「社長の側からみると、『A社への貸付金』が『A社株式』に変わることになります。同じ相続財産でも、貸付金ではなく株式となれば評価が下がる場合が多いため、相続税軽減対策となる可能性が高いのです」
  しかもこのDESを実行すると自己資本比率が向上するので、銀行の融資条件緩和にも効果があると思いますよ」
社長 「それはいいな。でも、簡単にできるのか?」
税理士 「具体的には借入金の現物出資となり、増資手続きをとることとなります。今年5月に施行された新会社法によって、この増資手続きが実行しやすくなったのですよ。しかし注意点もあるので、慎重に検討なさってください」
DES以外にも方法はある
  このように、社長借入金にかかる相続税対策としてはまずDESの活用が考えられます。具体的なメリットや注意点については「今週のトピックスNo.1280」で解説しているのでご参照ください。
  しかし、DES以外の方法を用いた対策もあります。いくつか紹介しましょう。
赤字会社における対策
  現在赤字が続いていて「社長借入金があるけれど、返済する余裕がなくて困っている」という会社を例にとって考えてみます。DESも非常に有効なのですが、社長に役員報酬の支払いがある場合は次のような方法も使うことができます。
  それは社長の役員報酬を減額し、社長借入金の返済に回すことです。役員報酬が減少する分だけ会社の利益は増えるのでP/Lの改善になるほか、税務上の青色繰越欠損金があれば税金がかかることもありません。役員報酬が下がることで、所得税・住民税軽減対策にもなります。
  社長個人からみると、貸付金の返済を受ければ現金は増加します。しかし返済されたお金を相続時までそのまま持っていることはまずないでしょう。趣味に使ったりすれば次第に減っていくでしょうが、まとまった金額になった場合は生命保険を利用して相続税軽減対策を提案すればよいでしょう。
  なおこの方法はDESと異なり、一気に社長借入金をなくすことはできないので、急激な効果を期待することはできません。時間もある程度必要なので、相続が目前に迫っている場合には不向きです。
後継者を利用した対策
  会社の後継者がある程度の現金を持っているのであれば、その後継者が会社に資金を貸し付け、会社がその資金を社長借入金の返済に充てることもできます。
  全部を返済するに越したことはありませんが、一部でも後継者が肩代わりできるのであれば、一考の余地はありそうです。この方法でも上記と同様、社長の現金が増加することにはなりますが、貸付金のまま保有しているよりも相続税軽減効果はあります。
社長が会社所有の土地に住んでいる場合
  社長が会社所有の土地に住んでいるのなら、社長借入金をその土地で代物弁済する方法があります。この場合、社長から見ると会社への貸付金が土地に変わって戻ってくるのですが、居住用土地については、相続税法上最大80%の減額評価が可能な「小規模宅地等の評価減特例」を適用できる可能性があるため、大幅な相続財産圧縮効果が期待できます。
  ただし会社は社長に土地を売ったことになるため、土地の簿価より時価の方が高い場合にはその譲渡益に対して法人税がかかります。また土地の譲渡は消費税法上「非課税売上」に該当するので、課税売上割合に影響し、結果として消費税の納税額が増える場合があります。実行に当たっては、税理士など専門家のアドバイスを得てください。
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まとめ  
  会社にとって「社長借入金」は、その全額が相続税の課税対象になるという点では懸念材料なのですが、実はそのほかの点をみるとマイナスになる要素はほとんどありません。
  それに対して、逆に「社長貸付金」がある場合は、よくない効果がほとんどなのでなるべく早期に解消していくことが賢明です。
  会社が社長にお金を貸していて、それが貸借対照表に計上されていると受取利息を計上しないといけないので、その分税金がかかります。銀行などの金融機関や取引先などからみると、会社がもうけを計上しても、それが社長個人の懐に安易に移転されるのではないかという疑念が生じるため、悪い印象を与えます。銀行格付審査上も好ましくないようです。 社長貸付金を解消する方法について、詳しくは過去の記事「社長の貸付金をきれいにする方法」をご覧ください。
  今日の話が少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。
2006.09.11
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税理士 今村 仁 プロフィール
[経歴・バックグラウンド]
京都府京都市出身
立命館大学経営学部企業会計コース卒
会計事務所を2社経験後、ソニー株式会社に勤務。
その後2003年今村仁税理士事務所を開業、
2007年マネーコンシェルジュ税理士法人に改組、代表社員に就任。
[保有資格]
  税理士・宅地建物取引主任者・CFP(R)・1級FP技能士など
税理士 今村 仁