新型コロナワクチン、いつ接種できる?

田中 元
2021.01.28

政府発表では「2月下旬から」だが…
 新型コロナ感染拡大の勢いは衰えず、1月24日時点で11都府県に2回目の緊急事態宣言が発令されている。経済などへの影響も長引く中、待ち望まれるのがワクチン接種だろう。だが、このワクチン接種、一部で情報が錯そうしている。

 政府発表では「2月下旬までに開始」としているが、実は現段階で接種可能なワクチンの治験はまだ終了していない。日本政府と国内供給に向けた正式契約が行われた各社の状況は以下のとおり。アメリカのファイザー社の治験は昨年10月から(12月18日に国内の承認申請が出された)、イギリスのアストラゼネカ社の治験は昨年8月からとなっている。やはり正式契約が結ばれたアメリカのモデルナ社は、1月21日に国内治験を開始したばかりだ。

 通常1年はかかるといわれる治験だが、2月下旬からの接種となれば、もっとも早く治験がスタートしたアストラゼネカ社の場合で治験期間は約半年となる。これは厚労省の「加速並行プラン」にもとづくものだ。プランでは、国内治験の後押しや審査期間の短縮などが図られる。
現実として一斉接種は難しく、優先順位が
 ただし、このプランには「留意点」がある。生産体制を整備した場合でも、大量のワクチンは生産開始後半年から1年程度かけて順次供給されるというものだ。たとえばすでに承認申請が行われているファイザー社の場合、「年内」としたうえで供給量は約1億4400回分。厚労省が示す接種回数は2回なので、「年内」7200万人分となる。アストラゼネカ社のワクチンが承認されれば、ここに「第一四半期中」で約3000万回分(2回接種で1500万人分)が加わることになるが、まだ承認申請は行われていない。
 つまり、2月下旬からの一斉接種は難しく、当然「優先順位」がつけられる。国は、その順位案を厚労省や首相官邸のHPで示している。

 それによれば、まず優先されるのは「新型コロナ感染症患者に直接医療を提供する医療従事者等」。この場合の「患者」とは、感染疑い患者も含む。また、医療従事者「等」については、患者搬送に携わる救急隊員や患者と接する保健所職員、さらに患者と頻繁に接する薬剤師なども含まれている。

 2番目に優先されるのが、感染によって重症化しやすい高齢者。ここでいう高齢者とは、2021年度中に65歳に達する人が対象だ。

 3番目以降の順位となるのが、やはり感染によって重症化しやすい基礎疾患を有する者(高齢者以外)。そして、高齢者施設等(介護施設やサービス付き高齢者向け住宅など)で働く従事者となっている。これは、高齢者が集団で生活する一部の介護施設などでクラスターが発生していることが背景にある。仮に入所・入居する高齢者がワクチン接種済みでも、従事者が他で感染などすれば、高齢者への介護サービス継続などが困難になる。そこで、これら従事者についても優先順位が上げられた次第だ。
 なお、12月時点での厚労省案では、この3番目の順位に「60~64歳の人」も含まれているが、これはまだ確定ではない。
優先順位には議論も。その他の人々は?
 さて、上位の優先順位において、「高齢者施設等の従事者」が上がっている点について以下のような疑問を抱く人もいるだろう。「高齢者が集団で集まるといえば、デイサービスなども含まれる。また、従事者離脱の影響が大きいのはホームヘルプ(訪問介護)なども同様ではないか」と。この点について、介護従事者の職能団体の一つである日本介護福祉士会が、1月7日に「在宅系の介護従事者への優先接種」を求める要望書を出している。今後の議論の一つになりそうだ。

 いずれにしても、医療・介護従事者以外で基礎疾患のない若年層は、優先順位からは外される。こうした人々については、あらかじめ自治体から接種券が配布され、接種を希望する者は医療機関に予約するなどして、順次接種を受けることになる(費用負担はない)。今後の海外製薬会社との契約や供給の状況、自治体等の接種体制の状況などにもよるが、「2月下旬」からは半年以上遅れることも想定した方がよさそうだ。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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