「データヘルス改革」の今

田中 元
2022.06.27

スマホ等で自身の保健医療情報が閲覧可能
 国が強く進める保健医療施策の1つに、データヘルス改革がある。代表的なのが、自身のさまざまな保健医療情報についてマイナポータルからスマホ等で把握し、主体的な健康増進などに活かすというもの。これをPHR(Personal Health Record)という。

 6月7日に政府が閣議決定した「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)2022」でも、このPHRについて工程表にのっとって「着実に実行する」とうたっている。ここでいう工程表とは、厚労省のデータヘルス改革推進本部から2021年6月に示されたものだ。中には、乳幼児健診・妊婦健診、各種予防接種の定期接種歴、特定健診、自治体健診、処方・調剤された過去の薬剤など、すでにマイナポータルで閲覧可能な情報も数多い。
マイナポータル・・・・・・マイナンバーカードを利用してオンラインで行政手続きや情報確認ができるサービス
いずれは電子カルテ情報もPHRの対象に
 これらに加え、今後自身のどのような情報が閲覧可能となるのか。先の工程表によれば、2022年9月からリアルタイムでの処方・調剤情報、手術・透析・その他の医学的管理にかかる情報が追加される。さらに2024年度からは、検査結果やアレルギー、告知済みの傷病名、画像といった電子カルテの情報も加わる予定だ(具体的な手法については議論も多い)。

 介護保険の関連では、2021年度からサービス利用者のADL(日常生活動作)や栄養・口腔、認知の状況などに関する経時データ等が、LIFEというデータベースに登録されるしくみがスタートしている。これらの情報をそのまま提供するかどうかは議論が必要だが、いずれにしても、システムを改修しつつ、2024年度以降に利用者自身や家族によってマイナポータルで閲覧することが可能になる予定だ。つまり、保健、医療、介護を通じたデータのほとんどを、当事者がマイナポータルによって利用できる未来が近づいていることになる。

 ちなみに、民間事業者によるPHRもすでに数多く存在している。たとえば、民間事業者による歩数や摂取栄養などのアプリを利用したことのある人も多いのではないか。マイナポータルによるしくみに、民間事業者によるPHRの情報が加わるとなれば、閲覧できる健康情報は飛躍的に拡大する。
ヘルスリテラシーなどの課題も一気に浮上
 それだけ情報量が増えるとなれば、当然ながら多くの課題も浮上する。

 たとえば、自身の健康に関するさまざまな情報が大量に入手できるようになったとして、それらを個人が「健康増進」のためにどこまで使いこなすことができるか。そこでは、個人の適格な判断・意思決定が必要になる。これをヘルスリテラシーと言うが、ヘルスリテラシーを向上させるためのしくみや情報提供のあり方についても問われることになる。

 また、個人情報の取扱いという点では、当然ながらセキュリティ上の課題も付きまとう。利用者への情報セキュリティに関する啓発の推進もさることながら、端末における不正な接続の防止などセキュリティ対策の推進を国の主導で行なうことも欠かせない。

 このあたりの課題に対し、厚労省は「国民の健康づくりに向けたPHRの推進に関する検討会」を開催、2020年2月6日に「国民・患者視点に立ったPHRの検討における留意事項」を取りまとめている。データヘルスがますます進化する中、情報を活用する当事者としても、時代状況に合わせて主体的に情報リテラシーを高めていく必要がありそうだ。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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