相続税の2021年度物納申請はわずか63件、75億円

浅野 宗玄
2022.07.25

前年度から件数は3.1%減少、金額も10.7%減少
 国の税金は金銭による納付が原則だが、相続税は、財産課税という性格上、延納によっても金銭納付が難しい理由がある場合は、一定の相続財産による物納が認められている。

 国税庁がまとめた2021年度相続税の物納処理状況等によると、今年3月までの1年間の物納申請件数はわずか63件で、前年度から3.1%(2件)減少、金額も75億円で同10.7%(9億円)減少と、件数、金額ともにやや減少した。
ピーク時から申請件数、金額ともに大幅な減少
 物納申請件数は、バブル崩壊後の1990年度以降、地価の下落や土地取引の停滞などを反映して著しく増加した。それまで年間400~500件程度に過ぎなかったものが、バブル期の地価急騰及びその後の地価急落で、路線価が地価を上回る逆転現象が起こり、土地取引の減少から土地を売ろうにも売れず、1990年度に1238件、1991年度に3871件、そして1992年度には1万2000件台まで急増した。

 しかしその後は、事前に相続税額を試算して納税準備をするなど相続開始前から納税対策を行う納税者が増えたことなどから、1999年度以降は年々減少している。2021年度も減少となったが、2007年以降は1989年度(515件)以来の1000件割れが続いている。2021年度の申請件数はピーク時1992年度(1万2778件)のわずか0.5%、金額でも同じくピーク時1992年度(1兆5645億円)の0.5%にまで減少している。
処理件数61件のうち約64%の39件が許可
 一方、処理状況をみると、前年度からの処理未済を含め前年度から12件減の61件、金額では同8億円減の72億円を処理した。年度末での処理未済件数は同2件増の27件、金額でも同3億円増の22億円に微増。処理の内訳は、処理件数のうち約64%の39件が許可されて財務局へ引き渡されたほか、物納財産として不適格として10件が却下、残りの12件は納税者自らが物納申請を取り下げている。
延納申請は前年度比29.0%増の1095件
 なお、2021年度の相続税の延納申請は前年度比約29.0%増の1095件、同57.6%増の490億円。処理状況をみると、同約6.8%増の1040件、同32.4%増の437億円を処理。年度末の処理未済件数は同18.6%増の351件、同34.0%増の213億円に増加。処理の内訳は、処理件数のうち約75%の783件が許可され、延納不適格として20件が却下、残りの237件は納税者自らが延納申請を取り下げている。
参考:
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト

1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に『住基ネットとプライバシー問題』(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍『生命保険法人契約を考える』
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.php

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