特養ホーム、地域によって意外に「空き」が?

田中 元
2022.09.29

2019年4月時点の待機者は32万人超だが
 特別養護老人ホーム(以下、特養)というと、重い介護が必要な人にとって不可欠な施設の1つ。だが、一般的には「待機者が多く、すぐには入所できない」というイメージが強い。実際、2019年4月1日時点での入所申込者(入所申込をしているものの調査時点で入所していない者。つまり待機者)の数は、全国都道府県の集計で32.6万人に達している。

 ちなみに、この申込者数はいわゆる「特例入所」の対象者も含まれている。「特例入所」というのは、要介護1・2の人で「やむを得ない事由(同居家族が重い疾患など)により、家での生活が困難」と認められる者を指す。特養に入所できる者は原則として要介護3~5の人だが、上記のように特例によって入所できるケースもあるわけだ。なお、先の入所申込者(待機者)のうち、要介護3~5の人だけでも29万2000人に達する。

 国は現在、最新となる2022年4月1日時点の集計を進めている。3年で上記の「待機者数」がどうなっているかに関心が集まるが、実は「地域によって入居枠の空きも生じている」という実態もささやかれている。
特養の業界団体が指摘した「待機者の現実」
 まず注目されるのは、特養の業界団体となる全国老人福祉施設協議会(以下、老施協)が、今年8月に厚労省宛てに提出した要望書だ。現在厚労省内の審議会で議論が続く「介護保険制度の見直し」に向けた要望書である。その中の「特養申込者の分析と周知」を求めた部分で、以下のような主張を展開している。

 1つは、特養の実質的な入居待機者は、公表されている数字の1割程度であるということ。上記の32.6万人という数字と照らせば、実際は3万2000人程度となる。もう1つは、地域によっては特養に入所待機者がおらず、むしろ空床が生じている事実が判明しているというもの。そのうえで、国に対し「さらに現状の分析を行ない、その内容を広く国民に周知する取組みをお願いしたい」としている。
地域によって入所ニーズに大きなバラつき
 冒頭の「すぐには入所できない」という一般のイメージからすると、「にわかに信じがたい」という人もいるだろう。そこで、厚労省が審議会に提出した資料を確認してみよう。

 たとえば、都道府県別の「65歳以上人口に占める特養入所申込者の割合(原則入所要件となる要介護3~5のみ)」だが、もっとも低いのが埼玉県や愛知県で0.4%程度。対して高いのが山梨県や秋田県で、前者は2%近くに達する。つまり、低い県と高い県で5倍近くの開きが生じていることになる。

 このあたりは、地域に在宅サービス資源がどれだけ整っているかなどにより、施設の入所ニーズが左右されたりする。一般的に、高齢者が密集する市街地などは、移動・送迎を考えれば訪問・通所系サービスの運営効率は高まるので事業所も進出しやすい。一方、高齢者が点在する過疎地などが多ければ、訪問・通所系などの運営効率は悪くなるので、環境的には施設系サービスが受け皿となりやすい。

 いずれにしても、地域によって入所ニーズにはバラつきがあり、ここに先の老施協の「実質的な待機者数は公表数字の1割」という指摘を当てはめれば「空き」が生じるケースもあるというのは「ありえる話」である。「特養は入れないもの」と決めつけるのではなく、まずは申し込んでみることが大切だ。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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