災害時の要介護者等支援をめぐる新たな動き

田中 元
2022.10.27

2021年5月施行の改正災害対策基本法
 大規模地震や台風等による水害など、わが国は大きな自然災害リスクにさらされている。ここに人口の高齢化が重なった時、たとえば介護など日常的な支援が必要な人の安全をどのように確保するか。これは、国民の安全・安心を守るうえで重要なテーマとなる。

 こうした課題に対する国の対策として、大きなトピックとなったのが2021年5月20日から施行されている「改正災害対策基本法」だ。昨今の頻発する風水害をめぐり、警戒レベル4の「避難勧告(旧来)」と「避難指示」が「避難指示」に一本化されたのは報道等でご存じのことと思われる。これも、上記の法改正によるものだ。

 これ以外に、特に要介護者等の安全確保を進めるうえで注目すべき改正点が、「個別避難計画の作成」を市町村の努力義務としたことだ。この「個別避難計画」とは、高齢者や障害者など「避難行動に支援が必要となる人(避難行動要支援者)」ごとに、①避難支援を行なう者の氏名や連絡先、②施設等の避難場所やそこまでの避難経路、③その他市町村長が必要と認める事項を記したものだ。

 上記の「避難行動要支援者」については、2013年の同法改正で名簿作成が市町村に義務づけられている(現状で約99%の市町村が作成済み)。この名簿を活用し、今度はその要支援者を被災時に安全に避難させるための計画を作成するというものだ。ちなみに、今改正前から「任意の取組み」として計画の作成が完了している市町村も約1割ある。
「個別避難計画」とはどのようなものか?
 では、この「個別避難計画」は、具体的にどのようなイメージになるのだろうか。内閣府は2021年度に34の市町村、18の都道府県を対象に「個別避難計画作成」のモデル事業を実施し、2022年3月15日に成果発表会を開催している。そのモデル事業参加自治体が採用している様式例を見てみよう。

 まずは、対象者の氏名・性別・血液型・生年月日・住所などの基本情報。ここに家族構成や所属する自治会・町内会、緊急連絡先、医療機関名、携行する医薬品などの情報が加わる。さらに、最寄りの避難所の情報、避難時や避難所での「必要な支援」(必要な機器や介助行為など)、避難時のサポーター(近所の友人や自治会役員など)などを記す欄もある。

 いずれも個人情報が数多く絡んでくるため、当然ながら作成に際しては本人・家族の同意が必要になる。このあたりの規定についても、今回の改正法では細かく記されている。

 上記の様式例でポイントとなるのが、「必要な支援」についての的確な情報を誰からどのように受け取り、取りまとめるのかといった点だろう。このあたり、地域ごとの多機関連携のノウハウが問われる部分といえる。
2023年度予算要求で注目の新システム
 そして現在、2023年度厚生労働省予算の概算要求で、「災害時の保健・医療・福祉に関する横断的な支援体制」にかかる新たなシステム構築が打ち出されている。中心となるのは、各現場から施設の被災やライフライン、避難所の環境等にかかる各情報を集約し、統合解析したうえで各現場にフィードバックするというもの。これをD24H(災害時保健医療福祉活動支援システム)という。

 このD24Hに、先の個別避難計画に盛り込まれる被災者情報を集計するシステムも加わる。これをD-vics(被災者情報伝達システム)といい、D24Hの解析により迅速な被災状況の推定と支援ニーズの把握につなげるというものだ。巨大地震の被害予測などがたびたび報道される中、国民にとっても関心の高いテーマだろう。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
好評発売中!
【最新版】「相手の気持ちが読み取れる」認知症ケアが実践できる人材の育て方
著:田中元
定価:2,750円(税込)
発行:ぱる出版
装丁:A5判・並製・160頁
詳しくはコチラ
2025年には認知症の人が最大730万人になると推計されるいま、「認知症ケアが実践できる人材」が求められています。
認知症ケアの基本的な考え方や質を高める4つの視点、人材育成の方法、さらにはステップアップまで、豊富な図解でわかりやすく解説。
認知症研究の最新情報を網羅した介護現場必携の1冊。

▲ PAGE TOP