介護保険の負担増案が続々。論点を整理する

田中 元
2022.10.31

高齢化が進む中での「給付と負担」の関係
 今年(2022年)10月から、後期高齢者(75歳以上)のうち一定以上の所得がある人の医療費の窓口負担割合が2割へと引き上げられた。急速な物価高が続く折、こうした社会保障にかかる負担増は、収入が年金等に限られがちな高齢者にとって少なからぬ影響があるだろう。

 そうした中、2024年度からは介護保険の利用についても、さまざまな負担あるいは制限が増えていく可能性が高まっている。2022年10月時点では、あくまで厚生労働省の社会保障審議会での議論の段階だが、そこで論点として示されている内容を整理してみよう。

 今年9月に開催された社会保障審議会(介護保険部会)では、「給付と負担の関係」について、政府の骨太の方針や改革工程表、財務省などからの改革案などの「指摘事項」がまとめられている。いずれも、高齢化により介護保険費用が増大する中、保険料負担等の在り方の検討により財政拠出などをいかに抑えて制度の持続性を高めるかをテーマとしたものだ。
内閣府や財務省が強く推す4つの改革案
 数ある論点から、特に注目したいのが以下の4つだ。①介護保険の負担割合(1~3割)のうち、特に2割負担の所得基準を見直す(引き下げる)こと。②現在は10割給付となっている「ケアプラン作成料金」に、利用者負担を導入すること。③介護老人保健施設や介護医療院の多床室(相部屋)について、現在は給付対象となっている「室料」を全額自己負担(補足給付を除く)とすること。④要介護1・2への訪問・通所介護を給付から外し、市町村の「地域支援事業(総合事業)」に移行させること──となっている。

 いずれも、内閣府や財務省からの要請が特に強い改革案といえる。この4つが実現された場合、たとえば、家で介護保険サービスを受けている人の負担増等はどうなるだろうか。

 まず、現在1割負担でサービスを利用している人が①の所得基準の見直しで「2割負担」となれば、高額介護サービス費による還付などはあるものの単純計算では負担は2倍になる。ここに、現在は無料のケアプラン作成費が②によって上乗せされる。現状の報酬額から計算すると、仮に1割負担としても要介護3以上で月1400円近くの負担増となる。

 さらに、リハビリ・療養ニーズの高まりで、いったん介護老人保健施設に入所するとなれば、③によって相部屋でも室料負担が発生する。
要介護1・2のサービスはどうなるか?
 一方、要介護1・2への訪問・通所介護にかかる④で、給付サービスが市町村の事業に移った場合、利用者にはどのような影響がおよぶのか。市町村の事業費には上限が設定され、オーバーする場合は国との交渉が必要だ。上限額の設定が厳しくなれば、市町村は事業者への報酬を絞る可能性も出てくる。これにより経営悪化で撤退する事業者が増えれば、介護ボランティアなどが中心のサービスが主な受け皿となることも想定される。

 ただし、要介護1・2となれば、状態が不安定だったり認知症などの症状も一定程度見られたりする人も多い。そうしたケースをボランティア中心で担えるのかという課題がある。

 いずれにしても、これだけの負担増+給付制限が実施されれば、介護保険制度そのものの存在意義が問われかねない。審議会は2022年末までに結論を出す予定だが、物価高騰で介護世帯の生活も厳しくなっている中、社会全体の注目度は一気に高まっていきそうだ。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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