2024年度、介護保険に新サービス誕生か?

田中 元
2022.12.15

訪問介護や通所介護の組み合わせサービス
 2024年4月に予定される介護保険制度の見直しで、にわかに新サービス誕生の可能性が浮上した。新たなサービスとなれば、2018年度の介護医療院、在宅系サービスに絞れば2012年度の定期巡回・随時対応型訪問介護看護、看護小規模多機能型居宅介護以来となる。

 今回浮上した新サービスとは、ひと言で言えば、訪問介護(ホームヘルプサービス)や通所介護(デイサービス)など複数サービスを組み合わせて提供するもの。同一事業所が、状況に応じて訪問介護や通所介護を柔軟に提供していくといえばイメージしやすいだろう。

 背景にあるのは、一人暮らしや夫婦のみの高齢者世帯が増える中、特に都市部を中心に介護ニーズが急増するという状況がある。加えて、労働力人口の減少によって、急増する介護ニーズになかなか人手が追いつかない可能性も大きい。これに対応するため、(家族介護に頼ることのない)切れ目ない支援と効率的なサービス提供を両立させるというものだ。
現行のしくみとの違いはどこにあるか?
 状況に応じた柔軟なサービス提供といえば、現状でも小規模多機能型居宅介護というサービスがある。これは、認知症の人の不安定な心理状況などに対応するため、「訪問」や「通い」、「泊まり」などを「本人の状況」に応じて柔軟に組み合わせていくというもの。どちらかといえば、こちらは「認知症の人特有の状況」に対応するためのサービスと言える。

 これと比べた場合、今回提案された新サービスは、ニーズの拡大と対応能力のマッチングを図るための「効率化」という点で趣旨は異なる。その趣旨を分かりやすく示すのが、今提案のベースとなっている「現場の声」だ。

 たとえば、すでに同一事業所で訪問系と通所系の両サービスを提供しているというケース。現行でも、こうした同一事業所による複数サービスの提供は可能だが、それぞれに設備基準や人員配置基準が定められ、両方をクリアすることが求められる。

 厚労省が示した事例では、通所介護において、朝の出迎え後・利用者の帰宅後に一部職員が待機している時間が生じる場合があるという。そうした職員を訪問介護に回すなど、人員の有効活用を図りたいが、先に述べたように人員基準の縛りが壁となってしまう。
区分支給限度基準額の問題もクリア可能
 また別の事例で上がっているのは、訪問系と通所系を各個のサービス枠で提供していると、サービス全体の利用頻度が高くなって区分支給限度基準額を超える可能性が出てくるという悩みだ。区分支給限度基準額とは、利用者の要介護度に応じて介護給付に設けられている限度額のこと。これをオーバーすると限度額を超えた部分は給付がなされず、利用者は限度超過分のサービス費用は全額負担しなければならない。介護保険サービスは本人の所得に応じて1~3割負担で利用できるが、限度額をオーバーした部分が10割負担となるわけだ。

 今回提案された複合型サービスなら、サービス類型は1つとなる。1つのサービスについて、省令で区分支給限度基準額を超える費用設定はなされないので、利用者は10割負担の発生を気にせずにサービスが利用できる。

 いいことずくめのように思われるが、注意したいのは、あくまで今提案の新サービスは「効率化」が主眼となっていることだ。これによって現場従事者の労働負担がどうなるのか、現場負担が増える可能性がある場合、サービスの質は保たれるのか──このあたりは慎重な議論が求められる。具体化の議論は、2023年に入ってから詰められることになる。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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