「顧客本位タスクフォース」中間報告書

加藤 悠
2023.02.02

 去る2022年12月9日に、金融審議会(首相の諮問機関)の市場制度ワーキング・グループ「顧客本位タスクフォース」が中間報告をとりまとめ公表しました。
「顧客本位のため」をルール化?
 顧客本位、と言えば、2017年に金融庁が「顧客本位の業務運営の原則」を策定しましたが、その背景は、
法令による規制(ルールベースでの対応)だと、金融機関はルールを守ればOKという動き(ミニマム・スタンダード)を行い、横並び・画一的な対応が助長される。「顧客のため」であれば、本来は各金融機関がそれぞれの創意工夫でベスト・プラクティスを目指して取り組むべき。
したがって、ルールベースでの対応だけではなく、原理原則を示し、それに対して、各金融機関がどう取り組むかを考えさせた方が、結果として顧客のためになるし、良い競争が生まれるはず(この「原理原則を示す」手法を「ルールベース」との対義的な用語として「プリンシプルベース」といいます)。
ということでした。
 しかし、改めて「顧客本位タスクフォース」で「顧客の業務運営等について具体的に検討」されたわけです。それは、過去に多く発生した「外貨建一時払保険」や最近増えている「仕組み債」のトラブルが問題視されていることが挙げられます。要するにプリンシプルベースで進めても、トラブルが無くならないので、一定のルールを定めざるを得ないのでは、ということです。

 また、岸田政権が掲げている「資産所得倍増プラン」も大きく関係しています。「資産所得倍増」には、収益が見込める金融商品への投資が必要で、ある程度のリスクを取る必要がある一方で、顧客は保護されなければならない。そのためにも「顧客を守るルールが必要」、というわけです。
中間報告の中身は?
 細かく触れることはできませんが、以下のようなことが盛り込まれています。
顧客の最善の利益を図るべきであることを広く金融事業者一般に共通する義務として定めること
→そのことによって、「顧客本位の業務運営」の取り組みを一歩踏み込んだものとすることを促す
利益相反の可能性と手数料等(仕組み債の組成コストなども)の情報提供のルール化
→情報提供の際は、顧客が容易に理解できるようわかりやすくする工夫も必要
デジタル技術を効果的に活用し、充実した情報をわかりやすく提供するように工夫すること
顧客の立場に立った「認定アドバイザー」の見える化
→ただし「投資助言業」の登録は個人では難しいため、どのようなルールとすべきか(たとえば、助言の対象をつみたてNISAやiDeCoに絞るetc.)やアドバイザー業務を持続可能なビジネスとして成立させるための支援が必要と考えられるため、継続して検討が必要
資産運用会社におけるプロダクトガバナンス体制の確立
→どんな顧客に販売されるかを明確にし、その利益にかなう商品を組成し提供するため
金融リテラシーの向上
→安定的な資産形成には、個々人の金融リテラシーの向上も重要なので、金融経済教育に関する取組みを進める必要がある。④のアドバイザーと地続きであり、統合的に取組みをすすめるべき
資産形成支援
→「資産所得倍増プラン」なども踏まえ総合的な資産形成支援を進める
 ルール化した場合の懸念(ミニマム・スタンダードに陥る可能性)もありますが、真に、顧客のためになる実効性が期待されるルールとなるように、今後の議論を見ていく必要があると思われます。
参照:
(セールス手帖社 加藤 悠)

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