介護サービスが「受けられない」時代到来!?

田中 元
2023.02.13

反響を呼ぶ2つの介護事業経営のレポート
 介護保険制度は、利用者のニーズに合致したサービス提供が保障されてこそ成り立つしくみである。地域にサービスが足りなくなれば、「何のために高い保険料を払っているのか」という疑念が起こり、制度の信頼性が崩れかねない。これが単なる仮想の話ではなく、現実問題となる懸念が浮上している。

 多様な助成事業等で医療・介護・福祉などの社会保障を支える独立行政法人に、福祉医療機構という機関がある。同機構が介護等の経営サポートの一環としてリサーチレポートを出しているが、2023年1月に発した2つのレポートが反響を呼んでいる。1つは、2021年度の「社会福祉法人の経営状況」について。もう1つは、やはり2021年度の「通所介護(デイサービス)の経営状況」についてだ。
2021年度に赤字の法人・事業所が一気増大
 前者のリサーチ対象となっている社会福祉法人は、社会福祉事業を行なうことを目的として都道府県や市町村の認可を受けて設立された団体で、たとえば介護保険施設である特別養護老人ホームの9割以上を担っている。在宅系の介護保険サービスは株式会社などの営利法人が多いが、それでも利用者の多い通所介護の35%以上は社会福祉法人が経営する(2021年10月時点のデータ)。

 その介護保険サービスの多くを担う社会福祉法人だが、先のリサーチによれば、赤字法人割合は31.3%(対前年度比5.4ポイント増)。介護事業主体の社会福祉法人に至っては、40.1%(6.8ポイント増)に至る。

 全産業の赤字法人率は6割超なので、「それに比べれば…」と思われがちだが、国民の健康と生活を支える社会保険事業で4割が赤字、しかも直近で急増という状況は見過せない。ちなみに介護事業主体の経常増減差額比率は1.7%で、2020年度の2.4%から0.6ポイント減少している。

 一方、後者の介護保険の利用者の約4割が利用する通所介護に絞ったデータだが、こちらは2021年度の赤字事業所割合は46.5%(対前年度比4.6ポイント増)と5割に迫る勢いだ。特にスケールメリットがあるとされる大規模な事業所の収支の悪化が著しく、これにより経常増減差額比率はやはり1.7%(対前年度比1.4ポイントの低下)となっている。
コロナ禍に加え、今後は物価高の影響も
 こうした介護サービス事業の経営状況の悪化の背景といえば、やはり2020年前半からの新型コロナ感染症の拡大によって経費が増大したり、通所介護でいえば利用控えやサービス休止の拡大による収益減などがあげられる。国はかかり増し経費の補助や収益悪化分を補填する介護報酬上の手当てを行なったが、なかなか追いつかない状況が見てとれる。

 そして問題なのは、今回のデータが2022年からの急速な物価上昇が十分反映されていないという点だ。現場の人手不足も、全産業の有効求人倍率の回復にともなって、賃金が相対的に低い介護業界は厳しさを増している。法令上必要な人員確保のために経営体力を度外視した賃金上昇を行なう事業所も増える中、経営状況の悪化は加速している可能性が高い。

 すでに民間のシンクタンクのデータでは、介護事業所の倒産・撤退が過去最高となっている様子もうかがえる。地域によっては、これから先「サービスを受けたくても受けられない」という状況が生じてくるかもしれない。2024年度に介護報酬が再び改定されるが、これまで以上に注目度が高まりそうだ。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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