労災発生による保険料引き上げ 事業主の不服申立て可能に

沖田 眞紀
2023.02.16

 労働災害による保険給付の実績は、各事業主の支払う2~4年後の労働保険料に反映されます。これは労災保険制度のメリット制といい、保険料確保の公平性と合わせ、労働災害防止努力の一層の促進を目的としています(メリット制の仕組みは、継続事業、一括有期事業、単独有期事業で異なります)。
 しかし、近年は原因、因果関係の分かりにくい精神疾患の労災認定が増えており、事業主が不満を訴えるケースが多くなっています。

 現在、事業主による労災保険給付支給決定の不服申立適格等は認められておらず、また、労働保険料認定決定の不服申立等において事業主が労災保険給付の支給要件非該当の主張をすることも認められていませんが、認定の取り消し請求権を認めた訴訟の判例もあることから、厚生労働省は「労働保険徴収法第12条第3項の適用 事業主の不服の取扱いに関する検討会」を開催、事業主が不服申し立てできる仕組みに見直す方針を了承し、以下のように取扱うことが適当であると報告されました。
事業主が労働保険料認定決定に不服を持つ場合の対応
(1)
労災保険給付支給決定に関して、事業主には不服申立適格等を認めるべきではない。
(2)
事業主が労働保険料認定決定に不服を持つ場合の対応として、当該決定の不服申立等に関して、以下の措置を講じることが適当。
ア)
労災保険給付の支給要件非該当性に関する主張を認める。
イ)
労災保険給付の支給要件非該当性が認められた場合には、その労災保険給付が労働保険料に影響しないよう、労働保険料を再決定するなど必要な対応を行う。
ウ)
労災保険給付の支給要件非該当性が認められたとしても、そのことを理由に労災保険給付を取り消すことはしない。
 この検討会は、労災保険給付を生活の基盤とする被災労働者等の法的地位の安定性についての十分な配慮を前提として、メリット制の適用を受ける事業主が労働保険料認定決定に不服を持つ場合の対応を検討するためのものです。あくまでも保険料引き上げに対する不服への対応であり、これによる労災保険給付の認定取り消しはしないとされていますが、一方で、不服審査に時間がかかり損害賠償を求める訴訟の進行が遅れるのでは、といった懸念や、被災労働者が労災申請を躊躇するのでは、事業主が職場復帰や職場環境改善に協力しなくなるのでは、といった心配もあり、制度導入に反対する声も挙がっており、今後の動向が注目されます。
【参考】
沖田 眞紀(おきた・まき)
特定社会保険労務士
社労士事務所コンフィデンス

千葉県出身。大手電機メーカーをはじめ、介護施設、建設関連会社等様々な業種で、人事労務を担当。長年の実務経験を活かし、現在は人事労務相談・助成金手続・就業規則作成などを中心に社会保険業務および各種相談業務を行っている。

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