中小企業の退職金、大卒モデルケースで1千万円!?

庄司 英尚
2023.02.27

中小企業の7割には退職金制度がある
 賃金に関する調査は、一般的に大手企業などを対象としたものが多くなる。しかし企業数の大多数を占める中小企業については、その実態がデータにほぼ反映されておらず、実態がわかりにくい。そんな状況にあって従業員数10~299人の都内中小企業を対象とした東京都産業労働局の調査は、専門家のみならず中小企業経営者及び人事総務担当者にとって大いに参考になるデータとして注目されている。

 この調査は、賃金については毎年、退職金については隔年ごとに実施しており、今年発表のデータは退職金も調査されているので今回は中小企業の退職金について平均支給額などの実態を見ていくこととする。

 集計企業のうち、退職金制度について「制度あり」と回答した企業が71.5%、「制度なし」と回答した企業が28.3%であった。また、「制度あり」と回答した企業のうち72.5%が「退職一時金のみ」、22.7%が「退職一時金と退職年金の併用」、4.8%が「退職年金のみ」と回答している。

 退職一時金の支払準備形態をみると、「社内準備」と回答した企業が62.0%で最も多く、以下は「中小企業退職金共済制度」が49.5%、「退職金保険」が11.6%、「特定退職金共済制度」が4.5%、「その他の社外準備」が6.2%であった(複数回答)。

 退職一時金の算出方法をみると、「退職金算定基礎額×支給率」と回答した企業が43.5%で最も多く、次いで「勤務年数に応じた一定額」が25.0%、「ポイント制(退職金ポイント×ポイント単価)」が15.5%であった。中小企業においてポイント制退職金制度を導入しているケースはまだ少ないが、働き方改革にあわせて年功主義から脱却していくためにも経営者は貢献度合いを反映した成果主義的な退職金制度への見直しが必要である。

 なお、退職金算定基礎額の算出方法をみると、「退職時の基本給」と回答した企業が45.0%で最も多く、次いで「退職時の基本給×一定率」が30.8%、「別テーブル方式」が11.3%であった。
2年前の調査よりモデル退職金額は低減
 モデル退職金(学校を卒業してすぐ入社した方が普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準)をみると、定年時の支給金額は、高校卒が994万円、高専・短大卒が983万2,000円、大学卒が1,091万8,000円であった。モデル退職金については前回調査の令和2年時と比較すると軒並み減少しており、とくに高校卒と高専・短大卒については1,000万円を下回ることとなった。

 中小企業の中には財務的に厳しい企業も多く、十分に社内準備ができていないところもあるかもしれない。いざという時に支払いができないということのないよう自社の現状を踏まえて余裕をもって準備するようにしたい。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/

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