「出産育児一時金」を後期高齢者医療制度も支援

田中 元
2023.02.27

改正法案が2023年通常国会に
 急速に進行する少子化を押しとどめるべく、現政権は社会保障に関して「子育て支援」を強く押し出している。具体的な施策の展開に際して主要なビジョンとなるのが、あらゆる世代が公平に支えあうという全世代型社会保障制度の構築だ。「子育て」であれば、「高齢者」も含めて社会全体で支えるしくみをいかに打ち出すかを主要課題に位置づけている。

 このしくみの1つとして、2023年の通常国会に注目すべき法案が提出された。法案名は「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」。法案名に「等」とあるように、健康保険法だけでなく医療法や介護保険法まで含めた20以上の法律を一気に改正する一括法案だ。
出産育児一時金を増額。その財源は?
 法案内でクローズアップされているのが、「出産育児一時金」の財源の規定である。周知のとおり、正常分娩では出産にかかる費用に健康保険は適用されず、全額自費負担となる。代わりに出産した者が加入する(あるいは被扶養者となっている)健康保険から、出産にかかる費用が一時金として給付される。これを「出産育児一時金」という。

 現在、この出産育児一時金は原則42万円(本人支給分40.8万円+産科医療補償制度の掛金分1.2万円)となっている。政府は全世代型社会保障構築会議において、この42万円からの積み上げを決定した。そして政令を改正したうえで、出産育児一時金を2023年4月から50万円に引き上げる予定だ。

 8万円もの引上げとなると、「財源をどうするか」が課題となる。そこで今改正案では、後期高齢者医療制度の枠組みで、社会保険診療報酬支払基金から各健康保険者に「出産育児交付金」を支払うしくみを定めている。つまり、75歳以上の高齢者による後期高齢者医療制度も、出産育児一時金の一部を支援するというわけだ。支援割合は対象額の7%。この新たなしくみの導入は、2年ごとに行なわれる後期高齢者医療の保険料改定のタイミング──2024年6月となる予定だ。
後期高齢者の負担はどこまで上がるか?
 気になるのは、今回のしくみの導入で、後期高齢者医療の保険料がどれだけ上がるのかという点だろう。政府は、「後期高齢者医療制度の創設前はすべての世代で子ども関連の医療費を負担してきた」としているが、「拠出の増加に対応する」となれば話は変わってくる。厚労省の示した試算では、月あたり50円の増額。なので「大したことはない」と思われがちだが、実は今回の法案で後期高齢者医療制度をめぐるもう1つの見直し点にもふれる必要がある。それは、同制度を運営するうえでの財源構成だ。

 この財源については、公費と75歳以上の高齢者が負担する保険料のほか、74歳以下の現役世代による各健康保険からの支援金で構成されている。現役世代は減少しているので、それによる75歳以上の負担増加分を現役世代と後期高齢者で折半しているのが現状だ。

 ところが、75歳以上の1人あたりの保険料の伸びと現役世代1人あたりの支援金の伸びを比べた場合、後者の方がはるかに大きい。全世代型社会保障をうたう現政権としては、この点も見過ごすわけにはいかない。そこで、両者の伸びが揃うように負担割合を調整するというしくみも今法案で設定されている。

 政府は低所得者に配慮しつつ、能力に応じた負担とするとしているが、少なくとも一定以上の所得がある高齢者の保険料負担は徐々に上昇する可能性もある。「出産子育て支援を社会全体で」そして「現役世代の負担を上昇させない」という名目のもと、高齢者はどこまで負担増を受け入れることができるか。今後も大きな議論となっていきそうだ。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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