賃貸住宅退去時の原状回復をめぐる状況とポイント

栗原 賢二
2023.03.20

 春は新生活に合わせて、住む場所も変える人が増えるシーズンです。今まで住んでいたのが賃貸住宅なら、退去手続きを滞りなく済ませることも重要になります。特にトラブルが起きやすい退去時の原状回復について、改めてポイントを整理しましょう。
高額の原状回復費用を請求されるケースも
 賃貸借契約は同じ物件に長期間住み続ける人も多く、部屋の傷や汚れを借主と貸主のどちらが修繕するのかをめぐって、トラブルになることがあります。独立行政法人国民生活センターによると、賃貸住宅の原状回復に関する相談件数は毎年13,000件~14,000件にのぼり、月別では3月と4月が件数のピークとなっています。

 相談内容には「想定よりも高額な請求を受けた」「普通に生活していた中でついた汚れや傷の修繕費用を請求された」「入居前からあった傷なのに修繕費用を請求された」といったものが多いようです。事例として敷金礼金ゼロの物件で10万円を超える原状回復費用を請求されたり、高額の敷金がほとんど返金されなかったというケースも存在します。

 中には入居当初から水漏れしていたシャワーヘッドの交換費用や、喫煙しない入居者への喫煙を事由としたエアコン修理代など、借主として納得できない請求内容も珍しくありません。
退去時のトラブルを避けるためには
 賃貸借契約における原状回復は、借主の故意・過失によって生じた傷や汚れ、または通常の使用方法とは言えないような使い方で生じた損傷等を元に戻すことです。借主は退去時(賃貸借契約が終了した時)に原状回復を行う義務を負いますが、借主の責任によるものではない損傷等や通常損耗(普通に使っていて生じた損耗)、経年変化(年月の経過による損耗・毀損)については原状回復の義務はありません。

 とはいえ退去時は契約締結から長い期間が経過していることも多く、焦点となる損傷等が通常損耗や経年変化にあたるかどうか、客観的な判断が難しい傾向にあります。また、原状回復に関する借主と貸主(大家や管理業者等を含む)の費用分担は、個別の契約内容や賃貸住宅の状況等によって異なります。そのため提示された修繕の範囲や金額について借主が納得できず、トラブルが起こりやすくなるのは十分想定できる流れと言えるでしょう。

 国民生活センターでは借主に向け、退去時のトラブルを避けるため、次のようなことが推奨されています。
契約する前に契約内容の説明をよく聞き、契約書類の記載内容をよく確認する
入居時には賃貸住宅の現在の状況をよく確認し、写真やチェックシートで記録に残しておく
入居中にトラブル(雨漏りや設置されていた機器の故障など)が起きたら、すぐに貸主側に相談する
退去時には精算内容をよく確認し、納得できない点は貸主側に説明を求める
納得できない場合やトラブルになった場合は消費生活センター等に相談
 原状回復をめぐるトラブル要因の多くは、借主と貸主のコミュニケーション齟齬と考えられます。特に契約内容の不明点や退去時の清算ルール等は、気になった段階で確認を取った方が良いでしょう。
【参照】
(セールス手帖社 栗原賢二)

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