2024年度介護サービスは「結果出し」強化へ

田中 元
2023.04.13

内閣府審議会が視野に入れるアウトカム
 介護保険などの社会保障制度の改革に向けては、厚労省や財務省の審議会だけが影響力を持つわけではない。近年では、内閣府の規制改革推進会議の意向も強さを増している。同会議は、経済社会の構造改革を進めるうえで必要な規制のあり方を審議し内閣総理大臣に諮問する場であり、医療や介護などの社会保障事業についても、給付の効率化などを進める観点からさまざまな改革を促している。

 その規制改革推進会議の「医療・介護・感染症対策ワーキンググループ」(以下、WG)で、これからの介護保険制度のあり方をめぐる大きな改革テーマを議論している。それが「アウトカム(結果)評価」の拡大だ。

 その名のとおり、介護事業者に支払われる介護報酬を算定する際、介護の取組みにかかる「結果」を評価するものだ。たとえば、報酬上の加算の算定に際し、利用者の状態が改善するなど一定の「結果」が出ている場合に、報酬単価を引き上げることが想定される。
既に「結果」を問う介護は始まっているが
 こうしたしくみは、現行でもわずかながら導入されている。たとえば、2018年度に通所介護で導入された「ADL(日常生活動作)維持等加算」。利用者の移動・移乗や食事、トイレ等の動作を一定の指標(バーセル・インデックスという)で測定し、期間をおいての維持・向上の程度を得点化する。その得点に応じた報酬が発生する。2021年度からは、通所介護に加え、特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームも対象となった。

 その他、2021年度からは、褥瘡(じょくそう)の発生を抑えた場合に評価される「褥瘡マネジメント加算」、排せつの自立(おむつ外しなど)が促進された場合に適用される「排せつ支援加算」なども誕生した。こうした報酬上のしくみをさらに広げることで、利用者の自立促進・重度化防止に向けた介護サービスの質を高め、ひいては介護保険財政のひっ迫を少しでも押しとどめるという狙いもある。
さらなる拡大に向けてネックとなる課題
 ただし、このアウトカム評価には課題も多い。最たるものが、「クリームスキミング」の発生だ。クリームスキミングとは、「生乳から美味しいクリームだけをすくい上げる」という意味から転じた経済用語で、「よい結果が出るよう、意図的に対象を選別する」ことを指す。先のADL測定でいえば、退院直後等で運動機能が急速に落ちている利用者では、短期間の訓練で機能向上が著しく向上しやすい。そうした利用者ばかりを意図的に集めれば、現場の取組みと結果が乖離することも起こりえる。これがクリームスキミングである。

 こうした状況を防ぐため、先のADL維持等加算の創設時(2018年度)は、アウトカムの改善が見込まれる高齢者を意図的に選別することを防ぐため要件を厳しくした。ところが、要件に該当する事業所数が絞られ計算も複雑になるので、せっかくアウトカム評価を導入しても算定率が伸びないという問題が生じた。そこで、2021年度には一部の要件を緩和するなどの対策を講じている。

 いずれにしても、アウトカム評価を拡大するうえでは依然ネックとなる課題である。規制改革推進会議では、実際の現場から、評価対象のグループ分けなどクリームスキミングを防ぐための考え方などをヒアリングする作業を行なっている。今後、適切な手法が築かれれば、2024年度からもアウトカム評価が一気に拡大するかもしれない。「結果を問う介護」が大きな潮流となるのかどうか、注目したい。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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