技能実習制度廃止へ、介護現場への影響は?

田中 元
2023.04.27

コロナ禍でも年間40万人の実習生来日
 少子化による将来的な労働力人口の大幅減少が見込まれる中、外国人労働者の受入れのあり方に注目が集まっている。特に大きなトピックとなっているのが、外国人技能実習制度だ。

 1993年(技能実習を伴わない前身のしくみまでさかのぼると1981年)に現行制度が創設されて以降、製造、建築、そして介護など多様な就労現場で実施されてきた。コロナ禍が深刻化しつつあった2020年にも、年間40万人を超える外国人が技能実習生として来日しているという実績がある。

 しかし、技能実習制度については、長年さまざまな課題も指摘されてきた。こうした状況を受けて、政府(出入国在留管理庁)は、2022年12月から「技能実習制度および特定技能制度のあり方に関する有識者会議」を開催。2023年4月の会合では、中間報告書案で「技能実習制度の廃止と新たな制度の創設の検討」へと踏み込んだ。
パワハラ、セクハラ…でも転籍できない
 では、技能実習制度には、具体的にどのような課題が指摘されてきたのか。上記の有識者会議では、JAMゼネラルユニオン(機械・金属製造業関連の産業別労働組合JAMによる外国人等の労働問題に対応する機関)などに、SNS等を通じて寄せられる技能実習生からの相談事例のヒアリングが実施された。

 それによれば、職場でのパワハラ、セクハラ、差別的発言、さらには実習計画とは違う単純作業ばかりさせられるケースなどもある。技能実習制度では、「技能習得のためには一定期間、同一職場での実習が必要」という考え方から、労働者の転籍は認められていない。よって、上記のような厳しい状況下でも実習生には「他の職場に移る」という選択肢がなく、問題の深刻化要因の1つとなっている。

 さらに、受入れ企業への指導・監査を行なう監理団体の質が十分に担保されていない状況も指摘された。たとえば実習生が職場での待遇等について相談しても我慢を強いたり、中には「辞めたら失踪者になる」など脅しに近い対応を行なう監理団体もあるという。また、監理団体と契約関係にある現地の送り出し機関も、支払われている手数料がブローカーの温床になるなど悪質なケースが報告されている。
人材育成から「+人材確保」の方向転換
 こうしたヒアリングを受け、新しいしくみにおいて、ここまで見てきた問題への対処をどのように位置づけたのか。

 まず、大前提として「技能実習制度=人材育成を通じた国際貢献(つまり、人材確保を目的としたものではない)」という位置づけを改め、「人材確保と人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討する」とした。これにより、転籍制限は限定的に残しつつも、「新制度の趣旨と外国人の保護」の観点から緩和を図るとしている。さらに、監理団体等の要件を厳格化し、悪質な送り出し機関については、その排除等に向けた二国間取り決めなどを強化するとした。

 ただし、今回の方向性はあくまで「案」であり、上記の転籍制限や監理団体の要件についても「引き続き議論する」としていて、新制度の具体像が明らかになるのはまだ先となりそうだ。気になるのは、たとえば介護現場での外国人従事者については、その多くは技能実習生であるという実態だ。しくみが変わるとなれば、現行の介護施設等ではさまざまな影響がおよぶ可能性もある。高齢者にとっては「誰が介護を担うのか」を含め、今後の議論の展開が気になるところだろう。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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