マンションの財産評価方法見直しの行方は?

堀 雅哉
2023.06.26

令和5年度税制改正大綱に明記されたマンションの財産評価方法見直し
 高層マンション(通称、タワーマンション)購入による相続税負担軽減スキームについては以前から問題視されており、そのような状況下でいよいよ財産評価方法改正か、と予想された時期もあったが、結局は「平成29年度税制改正」(平成30年度から新たに課税される物件が対象)における固定資産税の課税方法が改正されるだけにとどまっていた。その後は目立った動きはなかったが、昨年12月に公表の「令和5年度税制改正大綱(令和4年12月16日)」では「第一 令和5年度税制改正の基本的考え方等 5.円滑・適正な納税のための環境整備」の中で「(5)マンションの相続税評価について」として「マンションについては、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースが見られる。~中略~。このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実体を踏まえ、適正化を検討する。」と明記されたことから、改正に向けた本格的な動きが始まっているようである。

 さる6月1日には第二回目の「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」が開催され(第一回目は1月開催)、討議用資料および議事要旨が国税庁から公表されており、そこで行われた議論の様子を確認しながらマンションの財産評価方法見直しをめぐる現時点での動きを辿ってみたい。
マンションの財産評価方法見直しの方向性
1.
マンションの相続税評価額と市場価格の乖離の実体と原因
 マンションの相続税評価額と市場価格の乖離率(乖離率=市場価格÷評価額)は平均で2.34(平成30年)と、一戸建ての乖離率1.66を上回り、また、マンションの場合、乖離率が2以上、つまり評価額が市場価格の半分以下である占率が約65%に上っている。では、どうしてそのような大きな乖離が発生するのか、現行のマンションの評価方法(現行のマンションの評価方法=(1) 建物の価額(固定資産評価額)+ (2) 敷地の価額)から以下のようなことが要因と考えられる。
(1)
建物の価額は階層による差がない
 一方、市場価格は高階層の方が低階層よりも高い傾向があり、高階層の部屋ほど乖離率が高くなって相続税の節税に効果的である(いわゆる、タワマン節税のスキーム)。
(2)
マンションは戸数が多いので一戸当たりの敷地の価額が低くなる
 マンション一戸あたりの敷地の価額は、マンションの土地全体の評価額を部屋の専有面積に応じて按分して算出される。特にタワーマンションの場合は戸数が多く、一戸当たりの価額がますます小さくなる傾向にある
2.
乖離是正のための評価方法の検討
 このような状況をもとに、評価額と市場価格との乖離の是正のための検討が行われ、討議用の資料においては複数の検討案の中から、「現行の相続税評価額を前提としたうえで、市場価格との乖離要因(説明変数)から乖離率を予測し、その乖離率を現行の相続税評価額に乗じて評価する方法」が乖離要因に基づき補正することで足りるため、執行の可能性も高いとされている。そして、乖離の要因として考えられる築年数、総階数(総階数指数)、所在階、敷地持分狭小度の4つの要素と乖離率の関係において有意の結果が得られたとして、次のような見直しの方向性が提示されている。
市場価格と財産評価基本通達による評価額との乖離について、統計的分析に基づいて必要な補正を行う方向で検討
統計的分析に基づく必要な補正に当たっては、補正の程度について一戸建てとのバランスについても考慮するのが妥当
マンション評価見直し後において、マンション市場価格が急落した場合の対応については、他の財産におけるこれまでの取扱いも踏まえた検討が必要
 この方向性に対して第二回有識者会議参加者から意見が出されており、具体的な評価方法の提示までには至ってはいないが、今後、検討を重ねながらマンションの財産評価方法の具体的な改正案がまとめられると考えられる。来年度税制改正において改正内容が明らかになるのかどうか、引き続き動向を見守っていきたい。
(参考)
(セールス手帖社 堀 雅哉)

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