2022年の死亡数が前年から急増。背景は?

田中 元
2023.06.29

出生のマイナス幅を上回る死亡の増加率
 厚労省が、2022年の人口動態統計月報の年計(概数)を公表した。政府が少子化対策に躍起となる中、出生数・合計特殊出生率ともに過去最低を記録したことが強調されがちだ。だが、それ以上に衝撃的なのは死亡数。過去最多であるとともに、前年比約9%増の伸びとなっている。出生数の前年比約5%減と比べても、その数字の大きさが分かる。

 これまでも死亡数は、1980年頃から右肩上がりが続いてはいる。だが、ここまでの急増は過去に例がない。ちなみに、死亡者が集中しているのが75歳以上で、その年齢層だけで前年比12万人以上の増加となっている。2022年といえば、新型コロナウイルスによる死亡者数が急増した年にあたる。高齢者の場合、感染による持病の悪化リスクが特に高まるが、そうした事象が原因なのだろうか。
前年比で伸びが大きい死因は老衰と心疾患
 ここで死因別の増加の状況を見てみよう。死因でもっとも多いのはがん(悪性新生物)だが、増加数としては老衰(前年比約2万7000人増)と心疾患(高血圧性を除く。前年比約1万8000人増)が上回る。がんは前年比約4000人増なので、老衰、心疾患ともに伸びの大きさが際立っている。なお、老衰は90歳以上でがんを抑えて死因の1位。心疾患は50歳以上で死因の2位となっている。

 老衰とは、厚労省の「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」では、「高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない」ケースを指す。この老衰の伸びは2010年の直前から急速な右肩上がりとなり、この傾向は今調査結果まで続いている。そして、2010年直前といえば75歳以上が全人口の1割に達した時期と一致する。その点では、今回の死亡数増加要因の一端ではあるものの、人口の高齢化をめぐる中長期的なトレンドの延長として括ることができそうだ。
新型コロナで心疾患の悪化リスクが増大?
 となると、注意したいのは、老衰に次ぐ増加数を記録した心疾患だろう。死亡に至る心疾患でもっとも多いのは心不全だが、国立循環器病研究センターの統計では心不全入院患者の原因疾患では虚血性心疾患、高血圧、弁膜症の順に多いとされている。弁膜症などは高齢にともなう心臓弁(心臓内の血液の逆流などを防ぐための弁。高齢期の歯周病なども発症の遠因と言われる)の変性が原因の1つとなっていて、このあたりは老衰と同じく人口の高齢化が影響していると見ていいだろう。

 気になるのは、老衰が中長期的なトレンドで増加傾向にあるのに対し、心疾患は2021年からの増加が急であることだ。やはり新型コロナウイルス感染症との兼ね合いが気になる。

 ちなみに、日本循環器学会が心臓病患者向けに、「新型コロナウイルに関するQ&A」を出している。それによれば、ウイルスが体内に入ることで以下のようなリスクが高まるという。①ウイルスが肺に感染して血液中の酸素濃度が下がる、②感染による炎症の影響で血圧が下がるとある。これにより、心臓は各臓器に酸素を送るためにいつもより負担がかかり、心疾患を悪化させるリスクがあるというわけだ。

 たとえば、人口の高齢化で心臓弁膜症の患者が増え、そうした患者が新型コロナウイルスに感染して悪化リスクが高まるとなれば、今調査での死亡急増もある程度説明がつく。新型コロナウイルス感染症は5類に移行となったが、高齢期特有の疾患がある人にとっては、まだまだ安心できる状況にないという点を心得ておくことが必要だ。
参照:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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