課題は、「ハラスメントかどうかの線引きが難しい」

庄司 英尚
2023.07.03

「どこまでがハラスメント?線引きが難しい」は6割台後半
 東京都産業労働局は、令和4年度「職場のハラスメント防止への取組等 企業における男女雇用管理に関する調査」を行い、今年3月にその調査結果をまとめて発表した。

 今年度の調査では、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法への対応等に加え、職場のハラスメント防止への取組をテーマとし、企業における雇用管理の取組状況や従業員の意識等について調査している。なお、調査対象は、事業所は従業員数30人以上の規模で、13業種、合計2,500事業所。従業員はそれらの事業所に勤務する男女各2,500人、合計5,000人である。

 調査結果によると、事業所がハラスメント防止対策に取り組む上での課題について、「どこまでがハラスメントに該当するか、線引きが難しい」が67.1%と最も多く、次いで「代替要員の確保等、人員配置に苦慮すること」が27.1%、「風土の醸成」が25.0%となっており、これらの調査結果は今後のマネジメントを考えていくうえでとても役に立つ資料となっており、参考にしていきたいところである。
「就業規則等にハラスメント禁止を明記」は約9割
 職場におけるパワーハラスメント防止対策は昨年から中小企業も含め完全義務化されているが、職場のハラスメント防止対策義務化について知っているかたずねたところ、「知っていた」と回答した事業所は95.2%、「知らない」は3.5%であった。一方、従業員に同じようにたずねたところ、「知っていた」男性は50.5%、女性は44.5%で、事業所と従業員とでは認知度に差があることもわかった。

 それでは実際に改正法への対応を含めた事業所のハラスメント防止対策の実施状況についてたずねたところ、「就業規則等にハラスメント禁止を明記」の89.4%が最も多く、次いで「事業所内外に相談窓口・担当者、苦情処理機関等を設置」の86.3%、「ハラスメントに関する研修・講習等の実施」の70.9%が続く。
約半数の職場で過去5年間に何らかのハラスメントがあった
 事業所にたずねた職場でのハラスメントの実態は、過去5年間にハラスメントが「問題になったことがある」が40.0%、「問題になったことはないが実態としてある」が11.1%であり、あわせると51.1%の事業所で何らかのハラスメントがあることがあきらかになった。

 従業員への質問では、何らかのハラスメントを「受けたことがある」と答えた従業員は、男性は14.8%に対し女性は19.0%であった。男性は「受けたことも見聞きしたこともない」という回答が最も多く(48.2%)、一方、女性は「見聞きしたことがある」という回答が最も多い(40.9%)ことから、性別による認識差があることもわかった。

 職場におけるハラスメント防止対策の義務化が中小企業にまで広がったことにより、ハラスメントに関する認知度は高まり、従業員の意識も大きく変化してきている。企業側が本気でハラスメント防止対策に力を入れて、実際に効果あるものにするためには、トップが経営課題と捉えて本気で課題解決に取り組んでいく姿勢が大事ではないかと思われる。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/

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