認知症での行方不明が過去最多の1万8709人

田中 元
2023.07.31

課題解決には数字の冷静な読み解きが必要
 警察庁が「令和4(2022)年における行方不明者の状況」を公表した。各種報道でも話題となったのが、原因・動機別のデータで「認知症またはその疑いによる」行方不明者が、この区分を統計に組み込んだ2012年以降で最多となる1万8709人を記録したことだ。人口10万人あたりの割合は15.0人で、2012年の7.5人から倍増している。

 認知症の有病率が上昇し始めるのは75歳以上。そして、いわゆる団塊世代が75歳に差しかかっている状況を加味すれば、上記の「過去最多」となる数字もうなずける。ただし、この数字は冷静に読み解かないと、真の問題がどこにあるかがなかなか見えてこない。

 まず、注意したいのは、この1万8709人が「行方不明になったまま」ではないということだ。認知症による行方不明者のうち、所在確認等がなされたケースは1万8562人。中には不幸にも「死亡確認」というケースもごく少数あるが、「所在確認」されたケースは1万7923人で96.6%にのぼる。つまり、ほとんどは発見・保護されていることになる。
認知症行方不明者の早期発見率の原動力
 さらに、発見・保護された人のうち、親族等からの行方不明の届出が警察に受理されてから1週間以内の所在確認の割合は99.6%。行方不明者全体の所在確認が同じ期間で85.3%という数字と比較して、いかに迅速に発見・保護に至っているかが見てとれる。

 その要因の1つと考えられるのが、地域における認知症高齢者への見守り・SOS体制の構築が進んでいることだ。そのはしりとなるのが、1994年に構築された北海道の釧路地域SOSネットワークである。認知症の人が行方不明になった時、警察だけでなく行政や地域の多様な機関(消防団や介護事業所、地元放送局、輸送機関など)が連携を取り、地域ぐるみで早期発見・保護を目指すしくみだ。

 もちろん、そのためには捜索に際しての関係機関の事前協定がきちんと結ばれていることや、認知症の当事者・家族の希望に応じたGPS等の配布・適切なシステムの活用、さらに住民組織を交えた日常からの見守り体制などが機能していることが必要になる。こうした体制強化を図るため、厚労省は2014年9月に全国都道府県に対し、管轄市町村での「望まれる対応」についての周知を通知した。

 この周知を経て、認知症の人の見守り・SOS体制の構築は進み、関係機関の事前協定等を進めている市町村は2022年4月時点で96%以上にのぼっている。認知症の人が市町村や都道府県の枠を超えて移動するケースもあるが、地方行政間の連携(広域ネットワーク)は、やはり2022年4月時点で43都道府県が実現している。
今後問われるのは認知症ケアの人材育成
 長年にわたって築かれた地域の取組みが、先のような早期発見・保護に結びついていると考えていいだろう。ただし、高齢化が進み認知症による行方不明者自体がさらに増えれば、地域の取組みも限界に達しかねない。

 とはいえ、「認知症の人を家や施設に閉じ込める」という発想につながれば、それは重大な人権侵害につながるだけでなく、抑圧によって認知症の人の不安や混乱を助長し、「外に出ていく」衝動がかえって生じやすくなる。むしろ、本人の尊厳を保持し、穏やかに過ごしてもらうという環境整備が欠かせない。

 身体的・精神的に疲弊しがちな家族には難しい点を考えると、やはりそこにはプロの専門職による認知症ケアの充実が必要だ。そうした人材をいかに集め育成するかが、認知症による行方不明者の急増という将来的な課題の解決に不可欠な糸口となりそうだ。
参照:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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