ホームヘルパーの有効求人倍率が15倍超に!

田中 元
2023.08.17

しかもヘルパー年齢は65歳以上が24%超
 介護分野の人材不足が深刻なことは、今や多くの人々に周知されているだろう。厚労省が公表する一般職業紹介状況の2023年6月の有効求人倍率を見ても、全職業の1.12に対し、介護サービス職業従事者は3.73と3倍以上となっている(いずれもパート含む)。

 ただし、介護分野におけるこうした数字は氷山の一角にすぎない。介護サービスの中でも、在宅の利用者を重点的に支えている訪問介護(ホームヘルプサービス)をめぐっては、さらに深刻な数字が上がっている。厚労省が7月24日の社会保障審議会(介護給付費分科会)に提示した資料によれば、訪問介護を提供するヘルパーの有効求人倍率は、2022年度で15.53倍。先の一般職業紹介状況の職業別有効求人倍率を見ても、最大が建設躯体工事従事者の9.50なので、ヘルパー不足がいかに突出しているかがよく分かる。

 加えて注意したいのが、ヘルパーの年齢層だ。平均年齢は54.4歳で、施設等の介護職員の49.8歳を4.6歳上回る。しかもヘルパーの65歳以上の割合が24.4%と、ほぼ4人に1人が高齢者となる。ヘルパーの場合、単独訪問がほとんどなうえ、施設等と異なり、在宅には離床サポートのベッドはあっても、立ち上がり等の介助機器類が装備されていないケースは多い。先のヘルパー年齢を考えれば、腰痛等によるリタイアリスクは極めて高いと言える。
人材不足で、事業所数の地域間格差も顕著
 高齢ヘルパーが多いとなれば、移動時の車両運転での事故リスクも気になる。たとえば、都市部以外で車両運転に不安が生じれば、サービス提供はかなり困難になる。また、中山間地域等では報酬上の加算はあるが、基本的に移動時間に報酬は算定されない。家族の扶養が必要な世代の人材は、どうしても人口密度が高い地域に流れがちとなる。結果として、人材層の厚さに地域間格差も生まれやすい。

 ちなみに、先の審議会で厚労省が示した資料には、都道府県別の訪問介護の事業所数データも示されている。それによれば、人口10万人あたりの事業所数は、最大が213.4所(大阪府)に対し、最小が53.9所(新潟県)で実に3.9倍の開きがある。あくまで都道府県別のデータだが、これが市町村別となれば、さらに格差が拡大していることは確実だ。
利用したくても利用できない状況がすでに
 つまり、冒頭で述べた15倍超という有効求人倍率も、地域によってはさらに高まっている可能性がある。しかも、そうした地域でヘルパーの高齢化がより進みやすい(若い世代のヘルパーがいない)状況を想定すれば、今後も格差はさらに進むだろう。実際、市町村によってはヘルパー不足で事業所が縮小・撤退し、訪問介護を利用したくても利用できないというケースが目立ち始めている。

 厚労省が公表している2022年の国民生活基礎調査によれば、要介護等の高齢者がいる世帯の単独世帯率が3割を超え、同居家族がいる場合でも、主な介護者のやはり3割が75歳以上となった。加えて、コロナ禍で密になりやすい通所系サービス(デイサービスなど)が休止する状況などを見れば、訪問介護のセーフティネットとしての重要性はますます高まっている。それを支える人材が根本から揺らいでいるという状況を直視できるかどうか。高齢社会全体が問われている。
参照:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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