カスハラが新たに労災認定の基準に追加されます

沖田 眞紀
2023.08.28

カスハラとは?
 カスハラ(カスタマーハラスメント)とは顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為を言います。本来、顧客からのクレーム・苦情はそれ自体が問題とは言えず、業務改善や新たなサービス、商品開発につながるものでもあります。しかし昨今では、長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム、名誉棄損・侮辱・ひどい暴言、妥当性のない商品交換・金銭保証の要求、土下座の強要や暴行などにより、労働者の就業環境が害され、精神障害を発症するケースが増加し、問題となっています。

 「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討委員会」は、労災認定に用いる「業務による心理的負荷評価表」にカスハラに関する具体的な事例を労災認定時に考慮すべき要件として加えるよう提起した報告書をまとめ、公表しました。

 仕事による強いストレスが原因で精神障害を発症し、労災に認定されるケースは年々増加しています。厚生労働省が令和2年度に行った職場のハラスメントによる実態調査では、過去3年間に勤務先でカスハラを1度以上経験した労働者の割合は15.0%で、パワハラに次いで高いという結果が出ています。
 「お客様は神様」というのは、顧客側が自分は神様だから何でもしていいと思うことではなく、企業側が顧客に対して接する気持ちを言うのだと、改めて心に刻んでおきたいものです。

 なお、報告書では、新型コロナウイルス禍の経験から「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務」に関する具体的な事例について、労災認定時に考慮すべき要件に、新たに加えることも提起されています。厚生労働省は、この報告書を受け、速やかに精神障害の労災認定基準を改正し、迅速適正な労災補償を行っていくと発表し、今秋には改正する見通しであるとしています。
報告書のポイント
 報告書の概要は以下となります。
業務による心理的負荷評価表の見直し
具体的出来事の追加、類似性の高い具体的出来事の統合等
<追加>
「顧客や取引先、施設利用者から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)
<追加>
「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」
心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例を拡充
パワーハラスメントの6類型すべての具体例、性的思考・性自認に関する精神的攻撃等を含むことを明記
一部の心理的負荷の強度しか具体例が示されていなかった具体的出来事について、他の強度の具体例を明記
精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し
現 行:
悪化前おおむね6カ月以内に「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)がなければ業務起因性を認めていない
検討後:
悪化前おおむね6カ月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときは、悪化した部分について業務起因性を認める。
医学意見の収集方法を効率化
現 行:
専門医3名の合議による意見収集が必要な事案(例:自殺事案、「強」かどうか不明な事案)
検討後:
特に困難なものを除き専門医1名の意見で決定できるよう変更
【参考】
沖田 眞紀(おきた・まき)
特定社会保険労務士
社労士事務所コンフィデンス

千葉県出身。大手電機メーカーをはじめ、介護施設、建設関連会社等様々な業種で、人事労務を担当。長年の実務経験を活かし、現在は人事労務相談・助成金手続・就業規則作成などを中心に社会保険業務および各種相談業務を行っている。

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