相続人の登記申請義務を見据えた生前対策

髙野 守道
2024.01.11

 いよいよ、今年(2024年)の4月1日、相続登記が義務化されます。
 そこで、今回は、自らの相続によって生じる相続人の登記申請義務を見据えた生前対策について考えていきます。なお、不動産を特定の相続人が相続していくことを前提にします(つまり生前に売却することや相続発生後に法定相続登記をすることは想定外です)。
遺言がある場合とない場合
 最も有効と思われる対策は、遺言を残してあげることです。遺言がある場合とない場合の相続登記の申請までを比較すれば、一目瞭然です。

 遺言がない場合、相続人が相続登記を申請するまでの大きな流れはこうなります。
 ①相続人全員の特定 → ②遺産分割協議 → ③登記の申請
 ところが、この①②を完了させるためのハードルは、決して低くないのです。もちろん、親から子への相続、仲の良い家族などであればハードルは高くないと思います。しかし、相続人が兄弟姉妹になるようなケースや相続人間の不仲など協議が難しいケースでは、そのハードルはグッと上がります。

 例えば、相続人が兄弟姉妹になるケースでは、被相続人よりも先に死亡している兄弟姉妹がいて甥姪の代襲相続になったり、兄弟姉妹の人数が多かったりということがよくあります。そうなると、相続人を特定するための戸籍を収集するだけで数か月かかりますし、認知症などで判断能力の衰えた兄弟姉妹がいれば遺産分割協議そのものができないということも考えられます。兄弟姉妹全員が元気で、遺産分割協議ができるとしても、協議の結果、合意ができない場合には、家庭裁判所での遺産分割調停をするほかなくなります。

 遺言がある場合、上記の①②をする必要がなくなります。そして、その遺言が公正証書遺言や法務局に保管された自筆証書遺言であれば、いきなり③の登記申請に進めます。自宅に保管していた自筆証書遺言であれば、家庭裁判所での検認という手続きを経たうえで③に進みます。いずれにしても、遺言がない場合に比べれば、残された相続人の負担は格段に軽いものになるのです。

 もちろん、遺言の内容(文面)を実現可能なものにする必要があるとか、登記申請のためにはある程度の書類が必要になるということはありますので、遺言の作成に際しては、専門家にご相談されることをお勧めします。
髙野 守道(たかの・もりみち)
川のほとり司法書士事務所
司法書士

23歳からタクシー運転手になり34歳で個人タクシーを開業。開業2年後の東日本大震災をきっかけに司法書士試験の勉強を開始し、2015年合格。翌年に登録し、昼は司法書士、夜は個人タクシーという二足の草鞋を3年間続け、2019年から司法書士に一本化。地元葛飾において、成年後見、相続を中心に執務中。

若いころに勉強をしなかったことが功を奏し、中年になって勉強に目覚める。日本成年後見法学会、日本登記法学会、日本障害法学会などに所属する傍ら、大学の通信教育も受けている。元野球部でお笑い芸人を目指したこともあるなど、その声の大きさを活かし、相続・成年後見・遺言に関する講演実績も多数あり。

川のほとり司法書士事務所
https://sites.google.com/view/kawanohotori-office/

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