高齢女性に多い業務中の「転倒」災害

庄司 英尚
2024.01.22

職場環境の整備も重要だが、加齢による衰えの自覚も大切
 厚生労働省が発表している令和4年の労働災害発生状況を参考に、今回は高年齢労働者の労働災害について紹介する。

 同資料によると、雇用者全体における60歳以上の高齢者の割合は18.4%なのに対し、労働災害による休業4日以上の死傷者数における60歳以上の高齢者の割合は28.7%もあることから、高齢者のほうが労働災害に遭う確率が高いことがわかる。また、労働災害発生率(死傷年千人率)を男女別で60歳以上と30代を比較すると、60歳以上のほうが男性は約2倍、女性は約4倍になると同資料では分析している。このことから、転倒防止対策などの事業者側の職場環境の整備も大事なのはいうまでもないが、本人が加齢による衰えを自覚することも大変重要であるといえるだろう。

 年齢別、男女別の転倒災害発生件数(総数3万5,295人)を見てみると、上位は60~64歳女性(3,908人)、55~59歳女性(3,739人)、65~69歳女性(3,154人)というように高齢女性で占められている。 高齢女性の転倒災害発生率は高く、60代以上女性は平均2.35もあり、これは20代女性の平均0.15の約15倍にもなることが判明した。

 また、休業見込み期間についても、高齢になるほど期間が長くなることから、高年齢労働者が増えてくることにより、これまで想定していなかった職場内での労働災害が起きる可能性もあることに注意が必要だ。特に転倒はちょっとコードに足をひっかけたりすることだけでなく、何も無いところでつまずいたり、単純に足がもつれて転倒することもあるので対策が必要である。
転倒による怪我は骨折約7割、平均休業日数は47日
 厚生労働省のリーフレット「職場の皆さまへ 転倒災害(業務中の転倒による重傷)に注意しましょう」は、事業者に対して労働者の転倒災害防止のための措置を講じる必要性を説いており、「つまずき」「滑り」「足をひっかける」等による転倒災害について注意喚起している。

 同リーフレットでは、転倒災害(業務中の転倒による重傷、休業4日以上)の発生状況(令和3年)として、転倒による怪我で最も多いのは骨折(約7割)、転倒災害による平均休業日数は47日、転倒した時の状況は「移動中」が74%で「作業中」が26%、転倒災害の男女別・年齢別内訳の上位は①60歳以上女性(28%)、②50代女性(19%)、③60歳以上男性(15%)と紹介している。

 厚生労働省としても対策の1つとして、一般に加齢とともに身体機能が低下し、転倒しやすくなることから、「転びの予防 体力チェック」などをすすめており、特に女性は加齢とともに骨密度の低下から骨折リスクも著しく増大するので、対象者に市町村が実施する「骨粗鬆症検診」の受診を促している。現役の方でも、たった一度の転倒で寝たきりになる可能性があることを忘れないようにしたい。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
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