社会保険の事業所調査で指摘される「誤りが多い事例」

庄司 英尚
2024.03.04

間違っていることに全く気づいていないことが意外と多い
 社会保険の手続きの窓口になる各事業所管轄の年金事務所では、定期的に事業所調査を行っており、届出内容が間違っていたり、提出が漏れていたりしないか厳しくチェックをしている。その調査方法・調査内容も様々であるが、誤りを指摘される事項について、事業所が正しい手続きの方法を知らなかったという事案も多い。年金事務所は、そのような誤りを減らすことができれば業務の効率化につながるので様々な方法で周知し、啓蒙活動も行っている次第だ。

 今回は日本年金機構が公開した資料「令和5年度鳥取県年金委員・健康保険委員研修会参加用URL・資料」のうち、「事業所調査における誤りの多い事例」からその一部を取り上げて紹介することとする。
資格取得時の報酬に算入が漏れている場合、訂正届にて対応
 最初の事例は、被保険者資格取得届に報酬への算入が漏れているケースだ。基本給200,000円、通勤手当4,000円、役職手当10,000円、家族手当10,000円を支給したが、住宅手当12,000円は初回の給与で支給が間に合わず、翌月に精算支給した。そのため資格取得時の報酬に住宅手当分を含めずに合計224,000円で資格取得の届出をした――これは誤りである。

 正しくは、資格取得時に適用される給与規程等により、支給することが定められている手当は、資格取得時の報酬に含める必要がある。従って住宅手当を含めた合計236,000円で資格取得届の訂正の届出が必要となり、標準報酬月額は240千円となるので、給与計算も社会保険料控除額が間違っているため過去に遡って調整が必要になる。
月額変更届は固定的賃金総額の増減で判断
 次の事例は、同じ月に複数の固定的賃金が変動した場合、被保険者月額変更届において起こりやすいケースだ。令和3年9月から10月にかけて基本給が220,000円から224,000円に増額、住宅手当15,000円は廃止(0円)となった。基本給が224,000円に増額したことを月額変更の契機とし、令和3年10月を起算月とする令和4年1月改定(増額改定 280千円→320千円)の届出をした――これは誤りである。

 正しくは、同一月に複数の固定的賃金が変動した場合(手当の新設・廃止・増額又は減額)は、変動した固定的賃金の総額が増額するのか、減額するのかを確認し、増額改定・減額改定いずれの対象となるか判断することになる。従って、9月から10月にかけて固定的賃金の総額は11,000円減額しているため、減額改定の対象になる。増額改定には該当しないため、届出している令和4年1月改定の月額変更届は取消が必要である。取消後の標準報酬月額は、令和3年9月に決定された280千円となる。何らかの手当が廃止される際には基本給の増額や調整手当の新設などで対応することは多いので、正しい知識を身につけておきたい。

 社会保険の手続きや給与計算を社内の担当者が行っているところでは、知識や実務経験が不足している人もおり、自分たちでは何の違和感もないまま進めていると思っていても、定期調査によって誤りを指摘されるケースは多い。悪意があったり、虚偽の届出をしたわけではないから仕方がないが、全部やり直して給与計算の訂正を行うことは手間もかかるし、従業員からの信用にも関わる。ここに紹介していない事例も重要なので、下記の資料を参考に、定期調査で指摘されることのないようポイントは押さえておきたい。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/

▲ PAGE TOP