退職勧奨とは? 解雇との違いと注意点

庄司 英尚
2024.06.17

辞めてもらいたい問題社員を抱えて悩んでいる会社もある
 人材不足で採用に苦戦している会社もあるが、その一方で能力不足の社員や協調性がない問題社員、今までの業務がなくなってしまった社員などを抱えていて、今後どのように対処すればいいか悩んでいる会社もある。このような時に会社は退職勧奨を検討し、慎重にその準備を進めていくことが多い。

 今回は、退職勧奨とは何かについてまとめるとともにその注意点、そして解雇との違いにもふれることとする。
解雇は会社側の一方的な労働契約の終了、リスクが高い
 退職勧奨とは、会社が社員に対し「辞めてほしい」「辞めてくれないか」などと言って、退職を勧めることをいう。社員が退職勧奨に応じるか否かは本人の自由な意思にもとづき、任意となる。会社が解雇ではなく退職勧奨をするのは、合意のうえで雇用契約を終了することでトラブルを防ぐことができるからだ。

 会社からの申し出による一方的な労働契約の終了を解雇というが、解雇は、会社がいつでも自由に行えるというものではない。解雇が客観的な合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、社員を辞めさせることはできない。解雇するには、社会の常識に照らして納得できる理由が必要であるが、本人が納得いかなければ不当解雇だと訴えてくる可能性もあり、退職勧奨と比較するとリスクが高い。

 退職勧奨に応じて社員が退職する場合は、自己都合による退職ではなく「会社都合の退職」にあたり、雇用保険の失業手当を受給する際には給付日数が増える。また退職金制度がある会社なら、自己都合の場合は減額されることがあるが、会社都合の場合は満額となるのが一般的だ(会社の就業規則による)。社員に対してはそのような点についても早い段階から丁寧に伝えておきたい。
退職勧奨をしたつもりが慰謝料を請求されるケースも
 社員の自由な意思決定を妨げて、退職を強要するような退職勧奨は、違法な権利侵害にあたるとされる場合がある。また退職勧奨する際には社員と正式に時間をとって面談することになるが、1回の面談が長時間拘束して圧力をかけるようなものであったり、短期間に複数回退職勧奨を行ったり、明確に退職を拒否しているにもかかわらずしつこく退職するようにせまる行為は許されるものではない。会社側の行き過ぎた言動に対して慰謝料を請求されることもあるので注意しなければならない。また会社側が大人数で面談に臨んで心理的に圧迫してもいけないし、「退職勧奨に応じないなら解雇する」というような発言も控えたい。

 会社も退職に同意してもらうためには、退職勧奨する理由を丁寧に説明し、その交渉段階に入ったら退職に合意するにあたっての条件を提示する。双方で話し合いをして退職日をはじめ条件に合意した場合、それらを証明するものとして退職合意書を作成することになる。退職勧奨の実務にあたる会社側担当者は、当日の流れなどを整理して伝えなくてはならない事項や言ってはいけないNGワードも頭に入れておきたいところだ。最後に退職勧奨する社員に対しては失礼のないよう会社として誠実な対応をすることがトラブル予防のためにも一番大切であることを忘れてはならない。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/

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