事業承継税制の役員就任要件は緩和されるか?

今村 京子
2024.08.08

事業承継税制の特例措置とは?
 事業承継税制とは、後継者が経営承継円滑化法の認定を受けて、非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税が猶予等される制度である。平成30年度税制改正において、この事業承継税制について、これまでの措置に加え、10年間の特例措置として、贈与税・相続税の全額が猶予等される、いわゆる「事業承継税制の特例措置」が設けられた。特例措置のポイントは5つある。
1.株式の贈与・相続にかかる税額すべてを対象に
対象株式数の上限を撤廃し、猶予割合を100%に拡大することで、承継する株式にかかる贈与税・相続税のすべてが納税猶予の対象となった。
2.対象者を大幅に拡充
これまでは、先代経営者一人から後継者一人への贈与・相続のみが対象だったが、特例措置では、親族外を含むすべての株主から、代表者である後継者(最大3人)への贈与・相続が対象となった。
3.雇用要件を抜本的に見直し
雇用要件(事業承継後5年間平均で、雇用の8割の維持が必要)を抜本的に見直すことにより、雇用維持要件を満たせなかった場合でも納税猶予が継続可能になった。
※経営悪化等が理由の場合、認定支援機関の指導助言が必要。
4.将来的な売却・廃業の際の税負担を軽減
将来、事業を売却・廃業する際に株価が下落していた場合には、その株価を基に納税額を再計算し、事業承継時の株価を基に計算された納税額との差額を減免することで、経営環境の変化による将来の不安を軽減する。
5.特例承継計画の申請
事業承継税制の特例措置を利用するためには、2026年3月末までに「特例承継計画」を申請し、2027年12月末までに事業承継を行う必要がある。
出典:
役員就任要件3年
 100%納税猶予という異次元の税制優遇を受けるには、厳しい要件が課されるが、そのなかに「役員就任要件3年」がある。特例承継計画の申請件数は、増加はしているものの2023年度で5,357件であり、優良な中小企業の事業承継を進めたい政府としては、この特例措置の周知徹底に取り組み、特例措置の最大限の活用のために議論を重ねている。内閣官房HP新しい資本主義実現会議(第28回)議事「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改定版」が閣議決定されたが、そこに「役員就任要件3年」が取り上げられている。
事業承継税制については、現行では、その利用のために役員就任要件(実際の承継時に、後継者が役員に就任して3年以上経過している必要があるという要件)を満たす必要がある。
特例措置を利用する場合、本年12月末(実際の税制上の承継期限である2027年12月末3年前)までに後継者が役員に就任している必要がある。
来年以降に事業承継の検討を本格化させる事業者にとって、本年12月までに後継者を役員に就任させることは困難であり、事業承継税制を最大限活用する観点から、役員就任要件の在り方を検討する。
 役員就任要件3年が短縮されるかどうか、今後の動向に注目したい。
今村 京子(いまむら・きょうこ)
マネーコンシェルジュ税理士法人
税理士

三重県出身。金融機関・会計事務所勤務を経て現法人へ。
平成15年6月税理士登録。法人成り支援や節税対策・赤字対策など、中小企業経営者の参謀役を目指し、活動中。
年に数回の小冊子発行など、事務所全体で執筆活動にも力を入れている。
プライベートでは、夫は税理士の今村 仁で娘2人。趣味は英語学習とガーデニング。

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