不支給が増加した障害年金、その原因は?

岡﨑 一恵
2025.12.18

 障害年金は病気やけがで一定の障害がある人が受け取れる公的年金です。その認定をめぐって、「障害年金の不支給が倍増した」との報道があったことから、厚生労働省は日本年金機構と連携して認定状況の調査を実施。今回は、令和7年6月11日に公表された「令和6年度の障害年金の認定状況についての調査報告書」の概要を解説します。
「精神障害」の不支給が倍増
 調査では、令和6年度決定分から新規裁定1,000件、再認定(更新)10,000件を無作為に抽出し、集計が行われました。その結果、新規裁定における令和6年度の不支給の割合は13.0%と、令和5年度の8.4%より大幅に上昇しており、過去最高の水準でした。

 障害年金の対象は、手足の障害などの外部障害や呼吸器疾患や心疾患などの内部障害、さらに精神障害があります。外部障害と内部障害については、障害認定基準として医学的な検査数値等の客観的な指標が定められており、不支給の割合も前年度とほぼ変わりませんでした(外部障害:10.2%→10.8%、内部障害:19.4%→20.6%)。

 一方、客観的な指標だけでは評価が難しい精神障害については、不支給割合が令和5年度の6.4%に対して、令和6年度は12.1%と2倍近くになっており、今回の不支給増加の大きな要因となっていることが明らかになりました。
業務フローの見直しが影響か?
 では、なぜ精神障害で不支給が増えたのでしょうか。その背景には日本年金機構の審査プロセスの変更が考えられます。機構は医師(認定医)に障害年金の等級判定を委託しており、以前は認定医が等級判定を行い(一次審査)、その後に機構の職員が認定医の等級判定を確認する流れでした(二次審査)。

 しかし、令和4年4月以降、認定医が等級判定を行う前に職員が等級案を記載した「事前確認票」を作成する方式に変更されました。これは審査業務の迅速化が目的でしたが、職員による等級案の記載が実質的な一次審査となり、認定医の判定に影響を及ぼす可能性が指摘されています。

 報道では、令和5年10月に就任した障害年金センター長が書類の要件を厳格化し、日本年金機構の職員が判定を委託している医師(認定医)に対して低い等級や「等級非該当」と提案するケースが増えたことや、職員が認定医の一部に対し、支給を絞る方向で判断を誘導している可能性があることを指摘しています。

 調査の結果、障害年金センター長から「認定の根拠を明確にすべき」などの指摘はあったものの、理事長やセンター長等が「審査を厳しくすべき」といった指示を行っていた事実は確認できませんでした。認定医に関する文書については、組織的に認定をコントロールする意図は認められませんでしたが、認定の傾向に関することなど、一部に適切ではない記載内容も含まれていたことが明らかにされています。
今後は職員による等級の記入を廃止
 個別の認定が適正に行われているかについて、報告書では「ガイドラインや障害等級の目安よりも下位等級に認定されて不支給となるケース」や、「2つの等級にまたがる場合(「2級または3級」など)に、下位等級に認定されて不支給となるケース」が増加していることが示されました。これらが不支給事案に占める割合は、令和5年度が44.7%であったのに対し、令和6年度は75.3%でした。

 そして、認定のプロセスに問題はなかったとする一方、今後の対応策として、機構職員による等級の記入を廃止し、認定医の判断に資する客観的な事実のみを記載する方向で見直されます。

 また、不支給が見込まれる事案については複数の認定医が審査を担当することになり、令和6年度以降のすべての不支給事案について、複数の認定医による審査を開始しています。今後も月2,000件程度のペースで、年内を目途に不支給事案の点検を実施していく方針です。
表 令和6年度の障害年金の認定状況についての調査報告書(概要)
認定基準の見直しも課題に
 精神障害の障害年金請求にあたっては、生活状況や就労状況の実態を診断書に正確に反映させることが求められます。ただし、現行の障害認定基準は個人の心身の機能障害に焦点を当てた「医学モデル」に偏っているとの指摘もあります。そのため、審査方法の見直しに加え、障害年金の認定基準の見直しも検討する必要があります。従来の医学モデルだけではなく、「障害は社会的な障壁に起因する」という、「社会モデル」の考え方を取り入れていくことが求められています。
参考・出典:
岡﨑 一恵(おかざき・かずえ)
社会保険労務士岡崎一恵事務所 代表
社会保険労務士
1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®認定者

滋賀県大津市出身。同志社大学卒業後、地方銀行の人事部に勤務。
子育てのブランク9年と、紆余曲折の後、社会保険労務士として2018年開業。
2021年CFP®認定者として登録、2023年「くらしとお金のFP相談室」相談員、2024年日本FP協会FP広報センタースタッフを務める。
NPO法人障害年金支援ネットワークに所属。
地元横須賀の中小企業の労務管理と、障害年金代理請求業務、障害年金を受給されるご家庭のライフプラン相談に取り組む。

公式サイト https://www.okazakikazue.net/

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