健康経営における「2つの損失」とは?

加藤 悠
2026.06.29

 「健康経営」という言葉は、ここ数年で耳になじんだ印象がありますが、その中身を具体的に説明できる方は案外少ないのではないでしょうか。

 経済産業省は、従業員の健康保持・増進への取り組みを将来の収益性を高める「投資」ととらえ、健康管理を経営的な視点から戦略的に実践することを「健康経営」と位置づけています。また、一定の基準を満たし「健康経営優良法人」に認定されると、ロゴマークの使用が可能となるほか、自治体や金融機関においてさまざまなインセンティブが受けられます。この認定制度の広がりもあり、健康経営に関する取り組みが広がっているようです。
おさえておきたい「2つの損失」
 ところで、企業側から見た「従業員が十分に力を発揮できないことによる損失」とは、どのようなものがあるのでしょうか?わかりやすいものとしては、欠勤・休職・早退など、従業員が職場を離れてしまうことです。これらは、「アブセンティーズム(absenteeism)」と呼ばれ、目に見えやすい損失です。

 一方、健康経営の観点では、もう1つの損失があります。それが「プレゼンティーズム(presenteeism)」です。これは、出勤はしているものの、体調不良によって意欲や集中力が下がり、本来のパフォーマンスが発揮できない状態のことで、目に見えにくい損失です。

 ここで、少し意外な数字をご紹介します。東京大学政策ビジョン研究センター(現・東京大学未来ビジョン研究センター)が行った、企業が負担した従業員の健康関連コストについての試算では、アブセンティーズムによるコストは全体のわずか4.4%にとどまったのに対し、プレゼンティーズムによるコストはおよそ8割(77.9%)を占めていました。つまり、企業にとって影響が大きいのは、「休んでいる人」よりも「無理をして出勤している人」の生産性低下なのです。
安心して休める環境整備に必要なものとは?
 たとえば、「こころの不調」で考えてみると、この「2つの損失」がわかりやすくイメージできます。ある日突然休職するのではなく、不眠、集中できない、気分が晴れないなどの不調を抱えながら無理を重ねて出勤を続け(プレゼンティーズム)、限界を超えたときに長期の休職(アブセンティーズム)へと転じていくという流れです。

 ですから、健康経営で大切なことは、無理をして出勤し続けなくてよい環境、言いかえれば「安心して休める環境整備」にあるといえます。とはいえ、安心して休み、治療に専念するためには、「休んでいる間の収入」という現実的な不安を、できるかぎり取り除く必要があります。公的な制度としては「傷病手当金」や「障害年金」がありますが、それだけでは従前の給与との差を埋めることは難しいでしょう。

 また、「安心して休める環境整備」には、企業側の制度づくりだけでなく、従業員一人ひとりが生活面の不安に備えることも重要です。そこで、「就業不能保険などを活用して不足分に備える」という選択肢も考えられるのではないでしょうか。「健康経営」を切り口としてお客さまに提案することで、“働けないリスク”への気づきを促せるかもしれません。
参考:
(セールス手帖社 加藤 悠)

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