新型コロナ禍で「介護」が雇用の受け皿に!?
~厚労省が打ち出した他業種人材の移行策~

田中 元
2020.11.12

雇用環境が悪化する中で、介護分野は依然人材不足が深刻
 新型コロナ感染症については、依然収束の兆しが見えない。その余波として気になるのが、消費抑制等による景気悪化がもたらす雇用状況だ。この雇用状況を示す指標として、毎月のようにマスコミの注目を集めているのが厚労省の一般職業紹介状況である。ここで示されている有効求人倍率(求職者に対する求人数の倍率。低いほど雇用状況は厳しい)は、今年に入って急速に低下してきた。8、9月と低下傾向はやや落ち着いたが(1.04→1.03)、9月期の季節調整前(季節的な変動要因を除去すること)の職業計(パートタイム含む)はすでに1倍を割っている(0.95)。
 これに対し、依然として有効求人倍率が高水準を維持している業種もある。その一つが「介護サービスの職業」で、上記の「季節調整前・パートタイム含む」での有効求人倍率は3.82。職業計の0.95と比較してみれば、いかに介護業界の人材不足が深刻であるかがわかる。特に新型コロナ禍では、重症化しやすい要介護高齢者を対象とする介護業界は、感染防止に向けた業務負担や緊張度は相対的に高い。求職がままならない状況でも、人材の円滑な移行には大きな壁があるといえる。
2021年度予算概算要求で新たな介護人材確保策を提示
 そうした中、厚労省は2021年度予算の概算要求で、政府が定めた「新型コロナ対応等の喫緊経費」枠(事項要求)を活用した新たな介護人材確保策を打ち出した。それが、既存の施策である「介護福祉士修学資金等貸付事業」の拡充だ。その中の1つとして、「他業種で働いていた者等多様な人材の介護分野への参入促進に対する支援」がある。具体的には、この「他業種で働いていた者等」に対して、介護職就職支援金貸付事業(上記の「介護福祉士修学資金等貸付事業(以下、修学資金等貸付)」の一環)を創設するというものだ。
 ところで、既存の修学資金等貸付とはどういうものか。メインとなるのは、国家資格である介護福祉士を目指すために養成校に入学した人に対して、入学・就職準備金(各20万円)や学費(月額5万円)などを貸し出す修学資金貸付だ。資格取得後(国家試験の受験が必要)に福祉・介護の仕事に就いて、5年間勤務すれば返済は全額免除される。この他に、離職した介護人材が再就職するための準備金の貸付もある。就職のための転居費用や通勤用自転車の購入費などが対象で、上限は40万円。こちらは2年間介護職員として継続勤務すれば返済が免除となる。
他業界からの未経験者をターゲットとする狙いは?
 今回の概算要求は、この中のメニューの一つに、「経験者による再就職」のみならず「他業界で働いていた未経験者」の就職準備金なども含めるという位置づけになる。介護人材の確保という目的が主ではあるものの、明らかに雇用対策の一環という色合いも濃い。予算案として確定するのは年明けとなるが、新型コロナ対策の事項要求枠となっていることから恐らくそのまま通る可能性は高いだろう。
 ここで注意しておきたいのは、この新施策には、介護現場の改革との関連も潜んでいることだ。現在、国は介護サービスの自立支援効果を上げるために「現場の実践」のDB(データベース)化を進めている。業務効率化のためのICT(情報通信技術)化に補助金などを設けているが、このDBへの協力なども要件の一つとなっている。こうした現場改革が進む中では、たとえば他業界(IT関連など)のスキルも必要になってくる。そうした分野からの人材の移行を図るという点が、この新施策の隠れた目的ともいえる。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)、『スタッフに「辞める!」と言わせない介護現場のマネジメント(第3版)』『[新版]介護の事故・トラブルを防ぐ70のポイント』『認知症で使えるサービス・しくみ・お金のことがわかる本』(自由国民社)、『現場で使えるケアマネ新実務便利帖』(翔泳社)など多数。
田中元さんの新刊が出ました!
[速報! 2021年度施行]介護事業者・介護福祉関係者必携!
改正介護保険早わかり(2021年度からの介護保険はこうなる)
著:田中元
定価:1,300円+税
発行:自由国民社
装丁:A5判・並製・224頁
詳しくはコチラ
2020・2021年度施行の「改正介護保険」と高齢者福祉・保健・医療関連法のポイントを、いち早く、項目別に詳しく解説。介護、福祉の何が変わるのかが、わかります!
2019年の重要な改正点も収載・解説。
目 次
地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要
改正法、関連事項の施行時期一覧
Part1 
地域福祉にかかる包括的な支援体制の整備
Part2 
重層的支援体制の中身と介護保険制度との関係
Part3 
重層的支援体制の実際の「流れ」について
Part4 
地域福祉を担う社会福祉連携法人
Part5 
認知症施策の総合的な推進
Part6 
介護従事者の確保・育成や現場業務の改革
Part7 
有料老人ホームなど高齢者の「住まい」関連
Part8 
保健・予防の一体化や介護保険DBの活用
Part9 
介護保険等情報をめぐるしくみの充実
Part10 
介護保険等情報をめぐるしくみの充実
巻末資料 
地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案要綱

▲ PAGE TOP