弁当代や親睦会費、賃金から勝手に控除できる?

庄司 英尚
2020.12.07

一方的な給与天引きは、控除NGのものもある
 賃金の支払いに関しては会社と従業員の間でちょっとしたトラブルになることがよくあるので、質問や相談があったときに説明して納得してもらえるよう経営陣及び人事担当者は基本的なルールを理解しておかなければならない。

 賃金については労働基準法第24条において、(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払わなければならないと規定されている(賃金支払いの五原則)。その中の全額払いに関しては、原則的な取扱いとして、使用者は賃金を全額支払わなければならない。例外として賃金の一部控除ができる場合があるということで、その一つは「法令に別段の定めがある場合」となっている。これは所得税の源泉徴収、社会保険料、雇用保険料、住民税の控除が該当する。

 それ以外のものの控除、例えば弁当代や親睦会費などの控除については、労使協定が必要である。その労使協定は、掲示や書面の交付等により労働者に周知させなければならないことが労働基準法に定められているので、会社が労使協定を締結せずに控除することはできない。

 労使協定は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、そのような労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定となるので、ここは押さえておきたい。なお、この労使協定は、労働基準監督署への届出は不要になっている。
賃金控除に関する協定書はとても重要である
 給与から弁当代などを控除する場合、労使協定が必須となるわけだが、なおかつその内容についてもしっかり説明できるものでなければならない。その費用の内訳及び根拠があいまいな場合、あとになって問題になることもある。

 今までずっと問題なくやってきたからというような理由は説明にはならず、そのような誠意のない対応をしていると、従業員の不信感は増すばかりである。これを機会に早急に見直していただければと思う。上記にあげた弁当代、親睦会費の他にも労働組合費、社宅家賃、団体保険料、旅行積立なども対象となることを覚えておきたい。

 そもそも従業員が負担すべきものではないと思われるものを勝手に給与から控除してはならない。例えば教育費や制服代、パソコン費用などがあげられる。原則として会社が従業員に仕事をしてもらうのに必要なものは経費であって、従業員が負担すべきものではないので注意したい。また、従業員本人の個別の事情で貸付金の返済など同意のうえで控除する場合であっても、会社は同意書を必ずもらっておくのがトラブル回避の基本である。

 会社側は賃金からの控除などについて、これまで軽く考えていてあまり意識してこなかった項目かもしれないが、従業員にとって賃金は大事な労働条件になる。例えば中途入社してきて最初の給与明細を見た従業員が、給与から仮に親睦会費用(5,000円)、教育費(4,000円)など事前に説明もなく、勝手に控除されており、さらに労使協定の締結もしていないことを知れば不満がたまり、やる気もなくなって退職にもつながりかねない。

 従業員が安心して働くことができるように、改善すべきことはすぐに改善し、気づかないうちに法律違反をしていることのないようポイントとなるところは押さえておきたい。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/

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