最少の出生数、最低の出生率

森 義博
2025.07.07

過去最少の出生数、過去最低の合計特殊出生率
 6月4日、厚生労働省が「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)」を公表しました。2024年の各月の出生、死亡、婚姻などのデータを1年分まとめたものです。これに必要な修正を施した「確定数」が9月中旬にあらためて公表されますが、通常は僅かな修正にとどまるため、この時期に発表される「概数」が例年メディアでニュースとして取り上げられます。

 今回のポイントは、出生数が過去最少、合計特殊出生率が過去最低、死亡数が過去最多、したがって人口の自然減が過去最大という点です。しかも、この「過去最〇」が何年も連続しているところが重要です。

 厚労省のプレスリリースの「調査結果のポイント」の冒頭部分を3年分並べてみました(下表。下線は筆者)。出生数と合計特殊出生率はともに9年連続、つまり2016年から毎年低下しています。その前年の2015年はどちらも上昇したのですが、アップ幅は極めて僅かで、出生数は前年比2,112人増、増加率は0.2%にすぎませんでした。その前年は26,208人減少していますので、下降トレンド中の一時的なものだったといえるでしょう。

 一方、合計特殊出生率は2006年から15年までの10年間、前年と同じまたはやや上昇という状況が続いていました(2014年だけは前年より0.01低下)。そのため、2000年代初頭に1.3前後まで下がっていた値が1.4台半ばまで持ち直し、さらなる上昇が期待されたのですが、残念ながらその後の10年足らずでここまで低下してしまいました。
人口動態統計の「調査結果のポイント」冒頭部分(令和4、5年は確定数、6年は概数)
令和4年(2022) 令和5年(2023) 令和6年(2024)
出生数は770,759人で過去最少(7年連続減少)
合計特殊出生率は1.26で過去最低(7年連続低下)
死亡数は1,569,050人で過去最多(2年連続増加)
自然増減数は△798,291人で過去最大の減少(16年連続減少)
出生数は727,288人で過去最少(8年連続減少)
合計特殊出生率は1.20で過去最低(8年連続低下)
死亡数は1,576,016人で過去最多(3年連続増加)
自然増減数は△848,728人で過去最大の減少(17年連続減少)
出生数は686,061人で過去最少(9年連続減少)
合計特殊出生率は1.15で過去最低(9年連続低下)
死亡数は1,605,298人で過去最多(4年連続増加)
自然増減数は△919,237人で過去最大の減少(18年連続減少)
2015年の謎と2026年
 前述のとおり、2015年は出生数が前年より2,112人増えました。直前の2014年は26,208人減、直後の16年は28,479人減と明らかな減少傾向の中ですので、僅か2千人ほどといえども“増加”は目立ちます。当時は地域少子化対策重点推進交付金制度の下、各自治体がその資金を使って婚活支援事業などに取り組んでいた時期で、私も自治体の婚活イベントのお手伝いをしたことがあります。そうした施策の効果やアベノミクスによる経済の明るい見通しなどが影響した面もあるのかもしれませんが、この年だけ増えた理由としては少々弱いですね。

 実はその理由をめぐる都市伝説的な話があります。

 来年(2026年)は「丙午(ひのえうま)」で、前回の丙午(1966年)のような出産控えが起きることを私が心配していることは、今年4月のコラム「『2026年問題』はあるか」でお伝えしたとおりです。僅か59年前、教育もマスメディアも発達していた時代に、誰もが迷信とわかる言い伝えが原因で出生数が前年より25%も減少する事象が実際に起こったのです。

 この「丙午」現象が2014年にも起こったという説があります。2014年は勿論「丙午」ではありません。午年ではありますが、「甲午(きのえうま)」です。「ひのえうま」と「きのえうま」。音が似ているための勘違いから、2014年の出産を避け、翌2015年に先送りした人が一定数いたという説を唱える学者がいるという話です。

 俄かには信じがたい話ですが、出生数・出生率の比較的大きな変動の理由としては説得力があるようにも思えます。報道の範囲では、来年に向けて政府では本格的な議論にはなっていないようですが、仮に私たち現代人が丙午の呪縛から解放されていないとしたら、真剣な対策が必要かもしれません。SNSなどで拡がった噂で日本への渡航を見合わせるようなことが現実に起きる時代なのです。
参考:
森 義博(もり・よしひろ)
公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 シニアアドバイザー
CFP®、1級FP技能士、1級DCプランナー、ジェロントロジー・マイスター
1958年横浜市生まれ。大学卒業後、国内大手生命保険会社入社、2001年から同グループの研究所で少子高齢化問題、公的年金制度、確定拠出年金、仕事と介護の両立問題などを研究。2015年ダイヤ高齢社会研究財団に出向し研究を継続。2024年4月から現職。
趣味はピアノ演奏と国内旅行(とくにローカル鉄道)。

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