介護サービスの未来を左右!? 「LIFE」誕生

田中 元
2021.02.15

LIFEの和名は、科学的介護情報システム
 1月18日、2021年度からの介護保険制度のしくみを示した介護報酬・基準の改定案が厚労省から示された。この中に「LIFE」なるものが登場した。Long-term care Information system For Evidenceを略したもので、和訳すると「科学的介護情報システム」となる。

 実はすでに稼働しているいくつかのデータベース(DB)をまとめた呼び名である。ここでいうDBとは、介護保険を利用する人の情報を集めたもので、サービス現場と連携するものにCHASEとVISITなるものがある。

 CHASEとはCare, HeAlth Status & Eventsを略したもので、「高齢者の状態やケアの内容等」をデータベース化したもの。2020年度からモデル事業がスタートし、2021年4月から本格稼働する。たとえば、介護サービスを受けている高齢者の認知症や栄養、口腔の状態などのデータが蓄積される。このデータを現場ごとにフィードバックする他、将来的にケアの計画や記録と連動すれば、ケアの内容と高齢者の状態の分析も可能となる。

 一方、VISITはmonitoring & eValuation for rehabIlitation ServIces for long-Term careの略で、いわば「リハビリに関する情報」のDB。こちらは2017年度から稼働し、現場でのリハビリ計画書等の入力が始まっている。このデータを分析したうえで状態改善にかかるエビデンスを明らかにし、やはり事業所・施設にフィードバックするというものだ。
現場にLIFEへのデータ提供を求める動き
 もちろん、いずれも現場からのデータ提供が進まなければ、十分な効果を得られない。そこで、介護報酬や運営基準上で「データ協力を行う」ことを促すしくみが設けられた。

 すでにVISITについては、2018年度の介護報酬・基準改定で、「データ協力で報酬が上乗せ(加算)される」しくみがスタートしている。ただし、対象がリハビリ系サービス(訪問リハビリや通所リハビリ、いわゆるデイケア)のみで、算定率は1%台という低さだ。

 やや拍子抜けの感もあるが、2021年度からの「LIFE(CHASE+VISIT)」を対象としたしくみでは、本腰が入れられることになった。まず、運営基準で、全サービスにLIFEを活用したケア計画の作成等を推奨すると定めた。そのうえで、デイサービスやショートステイ、介護施設等の(訪問系を除く)ほとんどのサービスにLIFEへのデータ提供等を要件とする新たな加算を誕生させる。この加算、名称を「科学的介護推進体制加算」という。
報酬上の上乗せで利用者負担も増えるが…
 何とも大仰な名称だが、サービス利用者としては「そもそもどんなメリットがあるのか」が気になるはずだ。一連の取組みは、いわば「どんなケアを行えば生活機能が向上し、要介護者の自立が進むか」の解析が目的であり、その点では「自分でできることが増えるのならありがたい」と考えるかもしれない。

 一方、「報酬の上乗せ(加算)」というインセンティブがセットになることで、利用料のアップにもつながる。もっとも、先の科学的介護推進体制加算は最大で1月60単位なので、1点=10円で仮に1割負担なら月あたり+60円。金額的にはわずかだが、実は既存の加算(特別なサービスを行なったうえで上乗せされる料金)でも「LIFEとのデータ連携で上乗せされる」というものが一気に増える。これが将来的にさらに拡大するとすれば、「負担に見合った効果」が気になる人も出てくるだろう。

 介護に高度な科学が入ってくる流れは、たとえばケアマネジャーのケアプラン作成をAI(人工頭脳)が補助する、センサーが見守りを行うという取組みも一部ですでに始まっている。こうした流れも含めて、介護の未来像がどうなるのか。高齢者側としても、関心を持つべき時代が迫っている。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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