収入のない妻が保険契約者の場合の注意点

浅野 宗玄
2021.03.15

「契約者」とは名義上の「契約者」ではなく「保険料負担者」
 保険契約において、収入のない妻を契約者とすると、課税関係に注意する必要がある。税制上、「契約者」とは、名義上の「契約者」ではなく、実際に保険料を負担した人、つまり「保険料負担者」となる。例えば、個人年金保険の加入に際して、契約者=妻、被保険者=妻、年金受取人=妻として契約した場合でも、実際に保険料を負担しているのが夫であれば、契約者=夫、年金受取人=妻となる。
 従って、受け取る年金については夫から妻への贈与とみなされ、年金開始時点での年金の権利評価額が贈与税の対象となり、また2年目以降毎年受け取る年金が所得税(雑所得)の対象となる。
 課税の実務では、名義上の「契約者」が実際に保険料を負担したのかどうか、つまり負担能力の有無が問題になってくる。契約者と保険金受取人の関係によっては、所得税が課税されるのか、相続税が課税されるのか、といった判定結果が大きく変わってくる。そのため、夫が契約者であるとみなされると、課税関係が大きく変わるリスクがある。
夫婦間で保険料相当額の資金について贈与契約を締結
 このリスク回避のためには、一旦夫の口座から妻の口座へ保険料相当額を振り込み、妻の口座から保険料を支払う方法が考えられる。この時、妻の口座を実質的には夫が管理している口座、すなわち名義預金として取り扱われないよう、妻自身が通帳や印鑑を管理したり、夫婦間で保険料相当額の資金について贈与契約を締結することも考慮する必要がある。
 夫婦間で保険料相当額の資金について贈与契約を締結し、毎年、その年払保険料に相当するお金を妻に贈与するという場合にも、安易な取扱いは厳禁である。年金を受け取る段階になって、多額の贈与税が課税されることのないよう細心の注意をはらい、贈与事実の心証を得られるように証拠書類をしっかり残しておくことが必要となる。所轄の税務署や税理士に確認をとることも大切となるだろう。
保険料贈与の注意点
 保険料贈与の注意点としては、(1)毎年贈与契約書を2部作成し、できれば公証役場で確定日付をもらうこと、(2)できるだけ年間110万円を超える額を贈与し、毎年贈与税の申告書を提出し、保管しておくこと、(3)毎年、夫(贈与者)は妻(受贈者)の銀行預金口座に現金を振り込み、かつ、その銀行預金口座から保険料を支払うようにすること、(4)贈与した保険料については、夫(贈与者)の生命保険料控除の対象としないことなどがある。
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト

1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に『住基ネットとプライバシー問題』(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍『生命保険法人契約を考える』
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.php

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