人材確保が困難な中での「介護施策の転換」

田中 元
2021.03.25

相変わらずの介護人材不足。処遇改善は?
 2021年4月から、介護保険の給付内容が変わる。介護サービスにかかる給付にはさまざまな種類があるが、単位数が変わるとなれば、利用者の料金負担額も変わることになる。

 その利用者にとって、利用料とサービスの質とのバランスで「どう判断すればいいか」に迷うのが、介護従事者の処遇改善を目的とした給付だろう。2012年4月の改定で「介護職員への処遇改善分」が介護報酬に組み込まれ(介護職員処遇改善加算。それまでは保険外の交付金)、以降2回の上乗せが図られてきた。2019年10月には、「介護職員以外の職種」にも恩恵がおよぶ介護職員等特定処遇改善加算(以下、特定加算)も誕生している。

 確かに、介護人材の不足が深刻なことは、多くの利用者も理解はしているだろう。介護分野の有効求人倍率は、全産業平均と比べて3倍ほど高い。この数字からも想像できるように、人材不足の大きな要因に「採用の困難さ」がある。そこで、現場従事者の給与を少しでも上げて人材確保を進めることを狙ったのが、先の処遇改善関連の給付拡大だ。
さらなる給与増よりも「働きやすさ」重視
 では、2021年4月からの改定はどうなるのか。たとえば先の特定加算では、介護職員とそれ以外の職種の配分がルール化されているが、この緩和が図られた。従事者間での不公平感が生じやすいという悩みに応え、算定しやすい状況を整えたものだ。しかし、金額の上乗せは図られなかった。

 強いて言うなら、基本報酬(サービスの基本料金にあたる部分)が全体的に少しアップされたが、これは昨年からの新型コロナ感染の対策にかかる負担を考慮した要素が大きい。「業界全体の給与を大きく引き上げ、新たに人を集める」という狙いとしては弱いだろう。
 そうした中、今改定で国が打ち出した方策の一つは、従事者の「給与アップ」よりも、今働いている人を辞めさせないようにするための「働きやすい環境づくり」にある。

 たとえば、全事業者に対して「従事者へのハラスメント防止策」を省令上で義務づけたり、制度で定められた専門職同士のさまざまな会議などをICT(テレビ電話機能など)活用でもOKとした(利用者参加のサービス担当者会議も、利用者の同意があればICTで行うことが可能となった)。また、サービス説明書類(重要事項説明書など)に利用者の押印を不要とするなど、業務負担の簡素化も図られている。
さらに国が打ち出す「業務効率化」の流れ
 だが新型コロナ禍、これだけで「働きやすさ」が向上するかといえば簡単ではない。問題は、人手不足下でも高齢化によって介護ニーズは容赦なく伸びるのが明らかなことだ。この課題への緊急対処が必要な中、国のもう一つの方策は大胆な方向に踏み出している。

 それが、制度上の定員や人員配置の規定を緩和するという路線だ。たとえば、介護保険施設(特養ホームなど)の1ユニット(入所者の生活グループの単位)あたりの定員数を緩和したり、認知症グループホームのユニット数を増設しやすくするという見直しが図られた。

 人員配置でいえば、利用者の夜間状況を見守るセンサー等を導入すれば、夜勤職員の配置の緩和が可能となった。1人の従事者が法人の他業務に就けるという範囲も広がった。利用者の安全や従事者の負担に配慮するための規定も設けられてはいるが、とにかく「業務効率化で乗り切る」という色合いが濃い。

 果たして4月以降、介護サービス現場はうまく機能していくのかどうか。利用者としては、「事業者が現場に無理をさせていないか」を見極めることが、安全かつ質の高いサービス選びの重要なポイントとなりそうだ。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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