がんゲノム医療の現状

高田 康正
2021.04.01

 2018年3月に閣議決定された「がん対策推進基本計画(第3期)」における、2017年度から2022年度までの6年程度の期間の全体の目標として設定されたうちの一つが「ビッグデータやAIを活用したがんゲノム医療等を推進し、個人に最適化された患者本位のがん医療を実現する」という目標です。

 ゲノム医療とは、個人の「ゲノム情報」をはじめとした各種オミックス検査情報を基にして、その人の体質や病状に適した「医療」を行うことと定義され、遺伝子パネル検査(遺伝子変異を一度に数十から数百解析し、抗がん剤の選択に役立てる検査)により一人ひとりの体質や病状に合わせて治療が行われます。

 2021年2月1日現在、全国にがんゲノム医療中核拠点病院12カ所、がんゲノム医療拠点病院33カ所、がんゲノム医療連携病院161カ所が指定されており、遺伝子パネル検査を受けることができます。ゲノム医療を必要とするがん患者が、全国どこでもがんゲノム医療が受けられるようになることを目指して、体制づくりが進められています。
遺伝子パネル検査の保険収載
 2019年6月に、がんに関連した114遺伝子を調べる「OncoGuideTM NCCオンコパネルシステム」と324遺伝子を調べる「FoundationOne® CDxがんゲノムプロファイル」の2つのがん遺伝子パネル検査が保険収載され、保険診療で受けられるようになりました。自己負担額は、3割自己負担の場合168,000円となります。

 ただし、遺伝子パネル検査の対象となるのは、標準治療が終了となった(終了が見込まれる)固形がん患者または標準治療がない固形がん患者で、全身状態及び臓器機能等から、検査施行後に化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した患者となっています。
遺伝子パネル検査後の治療に結びついた割合は8.1%
 2021年3月5日に、第4回がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議が開催されました。そこでは遺伝子パネル検査の実施件数と遺伝子パネル検査後の治療についての報告があり、2019年9月1日~2020年8月31日の期間に行われた保険診療における遺伝子パネル検査は合計7,467件、遺伝子パネル検査の結果、エキスパートパネル(専門家が集まって遺伝子解析結果を検討する委員会)で提示された治療薬を投与した患者数は607人、その割合は8.1%(607人/7,467人)となっています。

 標準治療が終了となった(終了が見込まれる)または標準治療がない固形がん患者のうち8.1%が治療に結びついた一方で、残りの患者は有効な抗がん剤がまだ存在しない、開発途中で使えない等で治療に結びついていません。新しい抗がん剤の開発や、抗がん剤をいち早く承認するといった取り組みを加速する必要があります。
参照:
(セールス手帖社 高田康正)

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