介護保険で拡大中の「アウトカム評価」とは?

田中 元
2021.04.12

利用者の状態改善を評価した上乗せ報酬
 2021年4月から、介護保険サービスのしくみが変わる。利用者によっては、次年度までの間に利用したサービス料金が上がる場合もある(一部2022年度4月から変わるというケースもあり)。なぜなら、サービス事業者に支払われる介護報酬で、オプション的な上乗せの一部が見直されたり新設されたからだ。

 そのオプション(報酬上の加算)の中で、注目したいのは「アウトカム評価」というしくみが増えたことだ。アウトカム評価とは、「そのサービスを行ったことで、どれだけ利用者の状態が改善したか」を評価したものだ。一般の事業でいえば「出来高払い」にあたると言ってもいいだろう。
2018年から導入されたアウトカム評価も
 具体的にどのようなアウトカム評価が広がったか。実は、以前からアウトカム評価の加算というものはあった。たとえば、利用者の日常生活動作(ADL)の改善を評価したものに、デイサービス(通所介護)で2018年4月から導入された「ADL維持等加算」がある。

 これは、その事業所を利用している人のADLが半年間でどれだけ維持・改善されたかを、専門的な指標(Barthel Indexという)で測定するというもの。そのうえで、事業所全体で効果が上がっていれば、利用者全員の分の報酬が上乗せされるしくみとなる。

 特定の利用者が評価対象となるわけではないが、アウトカム評価による料金が上乗せされれば、「その事業所はADLの維持・改善に向けて頑張っている」という目安にはなるだろう。とはいえ、利用者にとっては負担増となることに変わりはない。こうしたアウトカム評価が増えてくれば、利用者にとって「それが、料金アップに見合うサービスと言えるか」という判断とのすり合わせが重要になる。
2021年4月から導入・拡大される内容は?
 2021年4月からの改定では、まず、このADL維持等加算の対象サービスが広がり、デイサービスに加え、特養ホーム、介護付き有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)(いずれも地域密着型含む)も対象となった。単価もアップし、仮に利用者負担が3割の人の場合、最大で月あたり540円の値上がりとなる(1単位=10円の場合)。

 一方、アウトカム評価が新たに導入されたのが、特養ホームなど施設系サービスにおける「褥瘡マネジメント加算」と「排せつ支援加算」だ。前者はリスクが高い人の褥瘡防止を、後者は排せつの自立が見込める人の「おむつ外し」などを、それぞれ評価するものだ。

 ここに、前者であれば「一定期間の間に褥瘡ができなかったかどうか」、後者であれば「おむつ外し等の自立が進んだかどうか」という「結果」を評価するしくみが設けられた。改定前と比較し、前者は報酬がアップし、後者は算定の期間が延長されている。

 一見、「まだ、これだけ」と思われるかもしれない。しかし介護報酬の場合、ある時点で行われた小さな見直しが、その後の改定(たとえば、3年後に予定される2024年度改定など)で一気に広がるケースが数多くある。
将来的には、利用者の主観的評価も影響!?
 また、現在国が開催している検討会(要介護者等に対するリハビリテーションサービス提供体制に関する検討会)で、将来に向けた「アウトカム評価」の指標案を示している。その中には、利用者の「主観的幸福感や健康観」といったものも検討対象となっている。つまり、そのサービスを受けることによる「満足感」なども評価の対象となる可能性があるわけだ。

 そうなると「お金を払うだけの価値があるかどうか」という利用者自身の主観的評価も、報酬に反映される時代がくるのかもしれない。介護サービスとそれにかかるお金のあり方が、大きく変わろうとしている。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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