介護が必要な人のワクチン接種で「特例」も

田中 元
2021.04.26

特設会場等への移動に支援が必要な人は?
 新型コロナウイルスワクチンの高齢者(65歳以上。2021年度中に65歳に達する人を含む)への接種がスタートした。接種順位としては医療従事者に次いで2番目となる。今後は、高齢者以外で基礎疾患を有する者、高齢者施設等の従事者、およびワクチン供給量に応じて60~64歳の人への接種となる予定だ。

 今回のワクチン接種に関しては、多くの人員や超低温冷凍庫などの整備体制が必要となる。そのため、短期でより多くの人に接種するとなれば、医療機関での接種のほか特設会場などでの接種体制も確保しなければならない。ここで問題となるのは、介護が必要(誘導・介助のほか、ワクチン接種後の状態観察なども含む)な高齢者で、特設会場等への移動手段が限られるといったケースだ。

 これらの場合、介護従事者が重要な担い手となる。まず想定されるケースは大きく2つに分かれる。①介護施設等に入所・入居しているケース、②在宅のケースだ。
ワクチン接種でもヘルパーの介助が可能に
 ①については、ワクチン配送を直接受ける医療機関(基本型接種施設という。特に供給量の多いファイザー社製では、配送から5日を超える場合に超低温保管を要するため、それに対応できる医療機関は限られる)から、介護施設等を併設している医療機関(※)に冷蔵配送して、併設施設に対して5日以内に接種が行われる。医療機関と介護施設等が併設されていない場合は、サテライト型接種施設の診療所などから施設訪問を行って接種を行うというしくみが想定されている。

 この場合、当の高齢者は入所・居住している施設等に居ながらにして、接種を受けることになる。このしくみについては各自治体と地域の医師会等との調整が必要だが、基本的には「会場への移動」を想定しなくても済む。

 問題は②のケースだ。同居家族などによる移動援助などが望める場合はいいが、そうでない場合は、やはり介護の専門職の手助けが必要となる。介護の専門職が動くとなれば、当然「介護保険」との枠組みが問題となる。この点について、国は特例の通知を出した。

 たとえば、ホームヘルパーによる訪問介護では、ヘルパー自身の運転による通院等乗降介助と、その前後のケアについては介護保険で対応できる。ただし、これは原則として医療機関への行き来に限定される。今通知では、こうしたケース(医療機関以外の接種会場など)についても、国は介護保険の活用をOKとした。また、事前にケアプランに設定されていない「ワクチン接種」という目的でも、事後的にプラン変更が可能となる。
なお、医療提供を行う介護保険施設(老人保健施設など)は、そのままサテライト型接種施設になることが可能(要登録)。サテライト型接種施設は、基本型接種施設1か所につき3か所程度を上限に設置され(地域の診療所など)、ワクチンの配送を受ける。
デイサービス先で接種可能なケースも
 さらに、当の高齢者がデイサービス(通所介護)を活用しているケース。この場合、事業所が「医療機関からの訪問接種を受けている施設」と併設しているなどの場合は、デイサービス先でも接種が受けられる。仮に本人が「その日にデイサービスに通う予定」になっていなくても、特例的に介護保険が適用される。

 なお、今回の通知では、デイサービスを受けている途中で、その事業所から車両を出して接種会場まで利用者の送迎を行うことも想定されている。この場合は「保険外(サービス提供の時間外)」となるので利用者には給付外の自費が発生するが、事業者が市町村から委託費(新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業費による)を受けていれば、費用負担は発生しない。

 いずれにしても、ワクチン接種と介護保険の関係は一般の人々には分かりにくいだろう。接種を希望する人は、事前に担当ケアマネジャーや事業者に問い合わせておきたい。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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