法人から個人への生命保険契約契約者変更時の経理処理取扱い見直しへ

堀 雅哉
2021.05.06

 法人契約の生命保険について、法人から役員や従業員の個人の名義に変更することによって退職手当の一部等の名目で現物支給を行い、役員や従業員の会社退職後の保障確保を可能とするということは、従来からよく知られている活用方法の一つであるが、この手法にともなって発生する経理処理取扱いのの見直しが行われることとなった。
低解約返戻金型保険による名義変更スキームの内容
 見直しのきっかけとされるのが、低解約返戻金型の生命保険商品(契約後10年間などの一定期間の解約返戻金額を抑えておき、その期間経過後に解約返戻金額が引き上がるような契約)を利用した法人契約から個人契約への契約者変更スキームであり、それは次のような手法で行われる。
法人を契約者(保険料の支払義務者)、役員や従業員を被保険者として生命保険契約を締結
解約返戻金額が低廉な期間中に法人から個人(被保険者である役員や従業員)に契約者を変更
低解約返戻期間経過後、新しい契約者となった役員や従業員が解約を行い、解約返戻金額を取得
 そして、このスキームによる節税効果としては、
契約者変更時には法人から役員・従業員に対して供与される経済的利益に対して給与課税が発生するが、課税対象額は「解約返戻金相当額」であり、低解約返戻金期間中の契約者変更によって課税対象額を低くすることができる。退職手当の一部として生命保険の現物支給となる場合は退職所得課税の対象であり、退職所得控除(他の退職手当を合算して適用)や2分の1課税の対象というメリットも享受可能となる。
契約者変更後の契約者である役員や従業員が低解約返戻期間経過後に解約することで取得した解約返戻金は一時所得課税の対象となり、2分の1課税の取扱いが可能となる。
元契約者である法人は、契約者変更時点で解約返戻金相当額を給与として損金算入でき、あわせて該当契約の資産計上額を取り崩すこととなって、解約返戻金相当額との差額を雑損失として計上できる(解約返戻金相当額が資産計上額よりも小さい場合)。
契約者変更時の生命保険契約の評価方法について見直しが行われる方向性
 今回の見直しについては、すでに各生命保険会社あてに説明が行われ、6月での改正を目指しているとの話が伝わっているが、具体的な改正の方向性は以下のとおりと言われている。
現行、給与課税すべき経済的利益を解約返戻金相当額で評価しているところを、解約返戻金がその時点での資産計上額の7割未満の場合は、資産計上額で評価
対象は、2019年の法人税基本通達改正によって新設の「法人税基本通達9-5-3の2(定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い)」の適用契約(改正日以降の契約者変更が対象)。
 上記の改訂によって、当スキームによる税負担軽減効果が大きく低減すると見込まれている。

 現行の取扱いは、現在のような低解約返戻金型の商品が出現していない時代に定められた取扱いであり、今回のような問題は、生命保険商品の多様化、高度化にともなって生命保険契約の評価方法(現行、解約返戻金相当額)と資産価値の実態との乖離が大きくなったために発生した問題と言える。

 法人から個人への契約者変更のスキームをめぐってはこれまでにも税制の改正が行われており、契約者変更後の解約時における一時所得課税における課税所得算出時の必要経費となる保険料についての取扱いが明確化されており、法人が負担した保険料については新しい契約者の給与課税の対象となった金額のみが含まれるように改正がされている(平成23年度税制改正)。今後も、生活様式や価値観の多様化にともない、生命保険商品が進化し、それによってまた新たな税務や経理処理取扱いの見直しが発生するということが繰り返されることが予想される。
(セールス手帖社 堀 雅哉)

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