在宅勤務における交通費や在宅勤務手当の取扱い

庄司 英尚
2021.05.10

労働日における労務の提供地がどこかで判断が分かれる
 3回目の緊急事態宣言が4月25日から4都府県に発令された。中小企業でも在宅勤務を導入しているところが増えてきており、その実施するに当たり新たに発生する費用等について企業が負担する場合、これら費用等を社会保険料・労働保険料等の算定基礎に含めるか否かについては、相談も多かった。

 その点に関しては、先日厚生労働省からその取扱いについて、判断基準が公開された。公開されたのは「『標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集』の一部改正について」と題した事務連絡の「○在宅勤務・テレワークにおける交通費及び在宅勤務手当の取扱いについて」だ。ここに3つの問いが追加されて基準が示されているのでポイントをまとめておきたいと思う。

 まずは在宅勤務・テレワークを導入し、被保険者が一時的に出社する際に要する交通費を事業主が負担する場合、当該交通費は「報酬等」に含まれるのかという点であるが、その労働日における労働契約上の労務の提供地が自宅か会社かに応じて、それぞれ取扱いが変わってくる。

イ)自宅の場合……業務命令により事業所等に一時的に出社し、その移動にかかる実費を事業主が負担するときは、実費弁償と認められ「報酬等」には含まれない。

ロ)会社の場合……自宅から当該事業所に出社するための費用を事業主が負担するときは、原則として通勤手当として「報酬等」に含まれる。なお、在宅勤務・テレワークの導入に伴い、支給されていた通勤手当が支払われなくなる、支給方法が月額から日額単位に変更される等の固定的賃金に関する変動があった場合には、随時改定の対象となるので、実務上意識しておく必要がある。
在宅勤務手当については実態で判断すること
 在宅勤務・テレワークの導入に際して、「在宅勤務手当」や「テレワーク手当」などの名称で手当を支給している企業もあるが、この手当は事業所ごとに異なるので支給要件や支給実態を踏まえて個別の判断が求められると記載されている。基本的な考え方は、以下のとおりとしているので押さえておきたい。

イ)在宅勤務手当が労働の対償として支払われる性質のもの(実費弁償に当たらないもの)である場合……在宅勤務手当が、被保険者が在宅勤務に通常必要な費用として使用しなかった場合でも、その金銭を事業主に返還する必要がないものであれば、「報酬等」に含まれる。(例:事業主が被保険者に対して毎月5,000円を渡し切りで支給するもの)

ロ)在宅勤務手当が実費弁償に当たるようなものである場合……在宅勤務手当が、テレワークを実施するに当たり、業務に使用するパソコンの購入や通信に要する費用を事業主が被保険者に支払うようなものの場合、その手当が、業務遂行に必要な費用にかかる実費分に対応するものと認められるのであれば、当該手当は実費弁償に当たるものとして、「報酬等」に含まれない。

 通信費・電気料金については、例えば、通話明細書等により業務のための通話に係る料金が確認できる通話料だけなく、業務に要した費用と生活に要した費用が一括で請求される電気料金のようなものも含まれる。これが認められるのは、就業規則や給与規定、賃金台帳等において、実費弁償分の算出方法が明示され、実費弁償に当たるものであることが明らかである場合のみである。

 社会保険上の報酬の考え方については、今回のような社会環境の変化により発生する報酬や手当その他費用の場合、判断が難しいこともあるが手当等の名称ではなく支給実態や支給要件などから判断して正しい実務を行わなければならない。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
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