弔慰金等受取人としての「配偶者」について

田中 一司
2021.05.17

弔慰金等の受取人順位、第1位は「配偶者」が一般的
 福利厚生のため、企業が役員・従業員を被保険者とし、企業が死亡保険金受取人となる生命保険契約を締結することがある。役員・従業員が死亡した場合、死亡保険金を原資として遺族に弔慰金・死亡退職金(以下、「弔慰金等」という)を支払うことになる。

 このような保険を締結する際は、弔慰金等が適正に支払われるよう、一般に弔慰金規程等を整備することとなる。これらには、弔慰金等の金額の定め方、受け取るべき人などについて規定されている。規程の存在により、受け取りをめぐる遺族間のトラブルを回避できるだけでなく、税務上有利な取り扱いを受けることもできる(適正な金額の弔慰金は相続税が非課税となるため、規程に弔慰金の計算根拠を定めておくことが重要)。

 では、実際に受取人となる人は誰だろうか。弔慰金規程等では次のように定めていることが多い。

 「以下の順序による。配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹」。あるいは、「労働基準法施行規則第42条から45条の例による」としているケースもある。

 「配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)」とは、いわゆる事実婚の状態にある者も戸籍上の配偶者と同様に扱うという意味である。
事実上、離婚状態にある場合はどうなるか
 では逆に、「届出をしていないが、事実上の離婚状態にある場合」はどうだろう。事実婚と同様に考え、実態を重視し配偶者でないものとして取り扱うという考えや、明文の規定がない以上、配偶者として弔慰金等を支払うという考え方もあるだろう。

 本件について令和3年3月25日に参考となる最高裁の判決が出た。中小企業退職金共済(中退共)と厚生年金基金に関するものであるが、受取人が「届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」と真逆の状態にある配偶者には受給資格があるのかどうかについての判断である。

 判決文では、中退共については「民法上の配偶者は,その婚姻関係が実体を失って形骸化し,かつ,その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない場合,すなわち,事実上の離婚状態にある場合には,中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらないものというべきである。」、厚生年金基金についても「民法上の配偶者は,その婚姻関係が事実上の離婚状態にある場合には,その支給を受けるべき配偶者に当たらないものというべきである。」としている。これらは、いずれも遺族の生活保障を目的としていることを理由としている。

 当然、どのような条件であれば「事実上の離婚状態」と判断されるのかは判例の積み重ねが必要であり、また、この判例がそのまま企業の作成した弔慰金規程等に適用されるかどうかについても慎重な判断が必要である。

 弔慰金等の支払先は最終的には規程に則って企業が判断すべきことである。FPとしては、このような事例があるという事実を踏まえつつ、必要に応じて弁護士等の専門家に助言を求める等のアドバイスをすることも大切であろう。
参考:
(セールス手帖社 田中一司)

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