フリーランスのガイドラインを公表

庄司 英尚
2021.05.24

フリーランスが安心して働ける環境整備のため
 令和3年3月26日、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が公表された。

 事業者とフリーランスとの取引について、独占禁止法、下請代金支払遅延等防止法、労働関係法令の適用関係を明らかにするとともに、これらの法令に基づく問題行為を明確にするため、実効性と一覧性のあるガイドラインが策定された。

 今回は労働関係法令を中心に、フリーランスに仕事を依頼する企業側にとって知っておきたいポイントについてまとめておく。
名称ではなく、個々の働き方の実態で判断
 さて「フリーランス」とは法令用語ではないわけだが、このガイドラインでは、「フリーランス」について「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」と定義している。もちろん広い意味では個人事業主全般を指す用語とされることもあるので、このガイドライン上の定義にはあてはまらないからといってガイドラインに反するような取引や取扱いがされれば、当然違法となるので注意しなければならない。

 それでは労働関係法令においてどのような場合、問題になるのだろうか。フリーランスとして請負契約や準委任契約などの契約で仕事をする場合であっても、労働関係法令の適用にあたっては、契約の形式や名称にかかわらず、個々の働き方の実態に基づいて、「労働者」かどうかで判断される。ガイドラインに記載されている判断基準により、「労働者」に該当すると判断された場合には、労働基準法や労働組合法等の労働関係法令に基づくルールが適用されることとなる。
労働者性の判断基準及び判断要素を理解すること
 同ガイドラインによると、「労働基準法における労働者性の判断基準」は、「労働者」を「事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」(第9条)と規定していることから、労働者に当たるか否かという「労働者性」については、以下の2つの基準で判断されると説明している。
労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか
報酬が、「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか
 その判断基準は、請負契約や委任契約といった形式的な契約形式にかかわらず、契約の内容、労務提供の形態、報酬その他の要素から、個別の事案ごとに総合的に判断されるという。同ガイドでは、以下のような項目について確認し、判断することとしている。
(1)
「使用従属性」に関する判断基準
「指揮監督下の労働」であること
a.
仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
b.
業務遂行上の指揮監督の有無
c.
拘束性の有無
d.
代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
「報酬の労務対償性」があること
(2)
「労働者性」の判断を補強する要素
事業者性の有無
専属性の程度
労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)で示された判断基準に基づく。
 同ガイドラインによると、もう一方の「労働組合法における労働者性の判断要素」は、「労働者」を「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(第3条)と規定しており、以下の判断要素を用いて総合的に判断すべきものと説明している。
(1)
基本的判断要素
事業組織への組み入れ
契約内容の一方的・定型的決定
報酬の労務対価性
(2)
補充的判断要素
業務の依頼に応ずべき関係
広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
(3)
消極的判断要素
顕著な事業者性
労使関係法研究会報告書(労働組合法上の労働者性の判断基準について)(平成23 年7月)で示された判断要素に基づく。
 いずれにしても労働基準法上の「労働者」と認められる場合は、労働基準法の労働時間や賃金等に関するルールが適用される。また労働組合法上の「労働者」と認められる場合は、団体交渉を正当な理由なく拒んだりすることが禁止される。労働基準法と労働組合法における「労働者」は、定義規定の違いもあり、必ずしも一致しないと解されており、労働組合法のほうが労働基準法より「労働者」の定義が緩やかに広く捉えているのでその点も理解しておきたい。
参照:
庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)
株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/

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