時給アップが年収の壁に及ぼす影響を考えてみよう

飯田 道子
2025.10.27

 2025年10月から全国の最低賃金が改定され、全国の最低時給の加重平均額は1,121円。前年比66円アップという嬉しい結果となっています。しかしながら、一向に年収が増えないという現状に悩んでいる、パートやアルバイトをされている専業主婦の方は少なくありません。
全国レベルで時給1,000円突破!
 今までは時給900円台の地域もあったものの、今回の改定で全都道府県で最低時給1,000円を超える結果となっています。都道府県ごとの引上げは63円~82円の範囲で、最も引上額が大きかったのが熊本県で82円アップして1,034円です。

 最低時給の高水準を維持しているのは東京都1,226円、神奈川県1,225円、大阪府1,177円で、それぞれ63円アップという結果になっています。時給1,000円超えは嬉しいのですが、なぜ思うように年収が増えないのでしょうか?
社会保険の加入の有無が年収アップを阻む?!
 特に扶養控除内で働きたいという人の場合、さまざまな年収の壁があり、これらが影響していると考えられます。具体的な壁としては下記の通りです。
・106万円の壁:
企業規模や労働時間などの要件を満たす場合、106万円を超えると社会保険の扶養から外れ、自身で社会保険料を納めなければなりません
・110万円の壁:
住民税の非課税額が110万円に引き上げられました。ただし住民税は前年収入に対して課税されるため、適用は2026年度支払分からです
・123万円の壁:
所得税の配偶者控除や扶養控除の収入上限が123万円に引き上げられました。123万円までなら扶養の範囲内で働けます
・130万円の壁:
企業規模等にかかわらず収入が130万円を超えると社会保険の扶養から外れ、自身で社会保険料を納めなければなりません
・160万円の壁:
給与収入が200万円以下の人は基礎控除の特例が使えるので、160万円まで所得税が非課税となります
家計全体で収入をシミュレーションして働き方を選ぼう
 いろいろな壁がありますが、ここで注目して欲しいのが106万円の(社会保険上の)壁です。106万円の壁には、個人側と企業側のそれぞれのデメリットがあります。たとえばパートタイムで働いている場合、下記の条件のすべてに合致していると社会保険上の配偶者の扶養から外れなければなりません。
1週間の所定労働時間が20時間以上である
雇用期間が2か月以上見込まれる
賃金月額が8万8,000円以上(年収106万円以上)である
学生でない
従業員数が51人以上の企業に勤務している
 「中小企業で働いているから106万円の壁は関係ない」というパートやアルバイトの方も、これからは注意が必要です。上記⑤の企業規模要件ですが、年金制度改正法(令和7年6月20日公布)により、2027年10月から36人以上、2029年10月から21人以上、2032年10月から11人以上と引き下げられ、2035年10月に同要件は撤廃されます。

 時給がアップしたことで、今までと同じ時間数で働くと月額収入が8万8,000円(上記④)を超えてしまう恐れがある方もいるでしょう。配偶者の社会保険の扶養から外れたことにより、世帯年収が下がってしまうという現象が生じることもあります。

 社会保険料は労使折半ですから、社会保険加入者が増えると必然的に企業の負担も増えます。そのため、パートタイマーの社会保険加入を嫌い、働いてもらう日数をセーブするという動きを見せている企業もなかにはあるようです。

 なお、年金制度改正法によると、上記③の賃金要件も撤廃予定で、その時期は同法公布から3年以内、全国の最低時給が1,016円以上となるタイミングで判断されるようです。将来的には、パートやアルバイトなどで週20時間以上働けば、企業規模や月額賃金にかかわらず社会保険に加入することになります。

 壁の捉え方は人それぞれですが、企業の思惑と個人の思いが一致していなければ、年収を増やすことが難しいのが現状です。

 配偶者の扶養内で働きたい、より多く働いて収入を得たいなら、政策や社会保険の動向に気を配りながら都度シミュレーションし、どのような働き方がベストなのか、自ら見極めることが必要です。
参考:
飯田 道子(いいだ・みちこ)
海外生活ジャーナリスト/ファイナンシャル・プランナー(CFP®

 金融機関勤務を経て96年FP資格を取得。各種相談業務やセミナー講師、執筆活動などをおこなっている。主な著書には、「宅建資格を取る前に読む本」(総合資格)、「介護経験FPが語る介護のマネー&アドバイスの本」(近代セールス社)などがある。
 海外への移住や金融、社会福祉制度の取材も行う。得意なエリアは、カナダ、韓国など。

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