65歳以上の介護保険料、月額平均が初の6,000円台に

田中 元
2021.06.10

市町村格差も大きく、最大で6,500円
 40歳以上が納める介護保険料は、全国市区町村(保険者)の介護保険事業計画(以下、事業計画)をもとに定められる。この事業計画は3年ごとに見直され、最新が2021~23年度。制度スタートから8回目の見直しとなるので、第8期事業計画と位置づけられる。
 この第8期事業計画をもとに、これから3年間の65歳以上の介護保険料(第1号保険料)の基準額が算出された(※1)。その全国平均の月額は、6,014円と初めて6,000円台に到達した。2018~20年度の第7期が5,869円だったので、+2.5%のアップとなる。
 これはあくまで全国平均。第1号保険料については、各市区町村の事業計画で定めた「今後3年間の介護サービス見込量」が反映されるので、被保険者が住む自治体ごとに保険料は異なる。今回、基準額がもっとも高くなったのは、東京都青ヶ島村で9,800円。逆にもっとも低いのが、北海道音威子府村と群馬県草津町で3,300円。その差は6,500円となる。
 全国平均が6,000円台に乗ったこともさることながら、地域ごとにここまで差が大きいと、「65歳以上の保険料がどのように定められているのか」が気になるところだろう。単純に考えれば、「地域で必要な介護サービスの見込量が増えれば保険料は上がる」わけだが、この点をもう少し精査してみよう。
介護報酬と保険料はどこまで連動する?
 まず、この「見込量」だが、過去の要介護認定者数の伸びなどの実績に基づいて推計される。そして、その見込量にかかる総費用に「介護保険財源のうちの第1号保険料でまかなわれる割合(23%)」をかけ、さらに「その市区町村に住む第1号被保険者(65歳以上)数」で割る──これが基本的な計算方法だ。これを見ると、「介護サービスの総費用のかかり方」が影響していることになる。
 となれば、「事業者に支払われる介護報酬が上がれば、その分保険料が上がる」、あるいは「その地域の高齢者が介護予防に取り組んで、サービス利用に至らなければ保険料は下がる」という見方が浮上してくる。だが、この理解についてはもう少し踏み込む必要がある。
 6,000円台という数字に惑わされがちだが、実は過去3年(第7期)からの+2.5%の伸びは決して大きくない。たとえば、第5期から6期の保険料平均は+11%と伸びはかなり大きいが、この時の介護報酬の改定率は-2.27%。翻って今回の2021年度の改定率は+0.7%。これを見ると、介護報酬の改定率との連動を断じるのは難しい。
注意したい介護給付費準備基金の存在
 国としては、近年力を入れている「介護予防効果」を強調したいところだろうが、その前に先の算出法に加えていないもう一つの要素を取り上げたい。それが介護給付費準備基金(以下、準備基金)だ。この準備基金というのは、実際の介護費用が見込みを下回った場合の剰余金を積み立てたものだ(※2)。
 この準備基金は、計画期間の最終年に残高があれば取り崩し、計画上必要な保険料収納額に組み込むことができる。市区町村条例にもよるが、残高があれば「保険料の高騰」を抑えるために活用することも可能だ。この残高は、2018年度末時点では1,482保険者で6,947億円となっている。
 「就業収入で年金収入を穴埋めしつつ生計を立てる」といった高齢者が増えている昨今、新型コロナ禍で家計状況が厳しいのは若年世代だけではない。こうした状況を見越したうえで、準備基金の取り崩しによって保険料の上昇を抑えた市区町村もあるのではないか。仮にそうだとすれば、問題は取り崩した後の2024年度からの保険料がどうなるかにある。6,000円台という数字に目を奪われがちな今回よりも、3年後に注意を払うことが必要だろう。
※1
各自が支払う保険料額は、基準額をもとに本人の前年度の所得を勘案したうえで決定される。
※2
介護保険は特別会計なので、剰余金の管理について準備基金を設けることができる。
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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