ついに誕生!? 認知症「治す」新薬米国で承認

田中 元
2021.07.12

アルツハイマー病の病理に作用する「アデュカヌマブ」
 認知症の国内での有病者は、2025年には最大で約700万人(65歳以上の高齢者の約2割)に達すると推計されている。まさに国民的課題となりつつある認知症をめぐり、大きなニュースが飛び込んできた。

 今年6月、国内製薬メーカーのエーザイとアメリカの製薬大手バイオジェンが、「アデュカヌマブ(一般名)」という新薬について、米国食品医薬品局(FDA。日本の厚生労働省にあたる機関)がアルツハイマー病治療薬として承認したと発表した。アルツハイマー病は認知症の主要疾患であり、アデュカヌマブはその病理に作用する初めての治療薬となる。

 作用を簡単に説明すると、以下のようになる。アルツハイマー病は、アミロイドβというタンパク質が脳内に蓄積することで、認知機能の低下を引き起こすとされている。今回の新薬は、このアミロイドβを減少させる働きがある。臨床試験では、18か月の投与でアミロイドβが6~7割減少したと報告され、認知機能の改善が期待されるというわけだ。
現在処方されている認知症薬との違いは?
 ここで疑問を抱く人もいるだろう。「これまでも認知症の薬は処方されているはずだが」と。確かに、現在認知症医療の現場で処方されている薬は4種類ある。それらと何が異なるのか。この点を整理しておこう。

 現在処方されている認知症薬は、①ドネペジル(商品名:アリセプト)、②ガランタミン(商品名:レミニール)、③リバスチグミン(商品名:イクセロンパッチ等)、④メマンチン(商品名:メマリー)。作用面では、①~③はアセチルコリンエステラーゼ阻害薬、④はNMDA受容体拮抗薬と位置付けられている。

 前者は、アルツハイマー病、およびやはり認知症の原因疾患であるレビー小体症の患者で、脳内のアセチルコリンという神経伝達物質が減少している状態に着目したものだ。このアセチルコリンが減少すると、脳内の情報伝達がうまく機能しなくなる。そこで、アセチルコリンを分解する作用を阻害し、その減少を防ぐ──これが①~③の作用となる。

 一方、後者(④)は脳内の脳内伝達物質(グルタミン酸)の「受け皿」に作用する。この「受け皿」をNMDA受容体というが、アルツハイマー病の場合、NMDA受容体が活性化して神経細胞が障害されている。このNMDA受容体の活性化を抑えて神経細胞を保護するというもの。神経細胞を保護するので、感情を安定させる効果も期待される。
米国での迅速承認の一方で課題もあり
 これらの作用はいずれも仮説にもとづくもので、神経細胞における情報伝達の機能を整えるという観点に立っている。アルツハイマー病自体の病理に作用するものではないため、認知症そのものを治すのではなく、あくまで「認知症の進行を遅らせる」という効果にとどまる。今回の新薬が「アミロイドβを減らす」というアルツハイマー病の病理に作用するという点とは、大きく異なるわけだ。

 ただし、今回の新薬には課題もある。何より、FDAの迅速承認が「条件」をつけていることだ。それはアルツハイマー病への有用性について、今後も臨床試験による確認を求めていること。仮に「有用性が認められない」となれば、承認取消しもありうる。

 また、仮に承認が継続されたとしても、研究開発に膨大なコストがかかっているため、非常に高価なものになる可能性が懸念されている。一部で、日本でも年内に承認される可能性が報道されているが、厚労省の薬事・食品衛生審議会などでも大きな議論となりそうだ。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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