新型コロナ禍で様変わり? 高齢者の地域活動

田中 元
2021.07.26

外出自粛で制限される高齢者の活動の場
 新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、東京では再び緊急事態宣言が出されたほか、一部地域でまん延防止等重点措置がとられた。感染収束が見通せない中、長期にわたる断続的な自粛要請等で、多くの人々が活動面での制約を受けている。中でも、運動機能や認知機能に影響がおよびやすいのが高齢者層だ。

 国は高齢者の介護予防施策の一環として、公民館などの公共スペースを活用した「通いの場」で、体操教室や健康相談の開催などを進めている。だが、新型コロナ禍によって多人数が集まる「通いの場」が休止したり、高齢者側が通いを控えるなどのケースも依然として多い。身体を動かす機会が乏しくなれば、筋力低下などは進みやすい。閉じこもり傾向が強くなることで社交性が乏しくなれば、認知機能への影響も懸念される。

 一方、認知症の人やその家族を地域で支える拠点として、やはり国は「認知症カフェ」を全市町村に設置する計画を進めてきた。認知症サポーター(地域で認知症の人を支えるための一定の講習を受けた人。2021年6月末現在、全国で約1,300万人)などとの交流や家族同士のピア相談などを通じて、本人の行動・心理症状の改善や家族の介護ストレス軽減にも役立っている。だが、こちらも新型コロナ禍で「開催できないまま」となっている例もある。
オンラインによる開催も一部で展開中
 これら拠点の主催者(住民ボランティアなど)も、手をこまねいてきたわけではない。たとえば、先の「認知症カフェ」では、手紙や回覧板を活用して対面以外で認知症の人とその家族の「つながり」を保とうといった取組みも続けられてきた。加えて、昨年から今年にかけて少しずつ広がりを見せてきたのが、「通いの場」や「認知症カフェ」をオンラインで実施するというリモートの取組みだ。
 たとえば、「通いの場」では、国立長寿医療研究センターが「オンライン通いの場」アプリをリリースし、厚労省も広報している。手持ちのスマホで同アプリをインストールすることで、以下のような機能が活用できる。
行きたい場所を設定して、お勧めの散歩コースを検索・登録できる「おさんぽ支援」
自治体が提供する体操動画を検索できる「自宅でできる体操」
フローチャートにもとづいて自分に適した運動・活動を見つけることのできる「健康チェック」
──といった具合だ。
 さらに、「認知症カフェ」でもZoomなどのオンラインコミュニケーションツールを使った開催が一部で進んでいる。もちろん、100%オンラインというのは難しいケースも多いため、感染リスクの低い少人数で場所を分散し、そこで大型モニターやプロジェクターを活用して行うといった方法がある。いわゆる「オンラインと対面の併用型」だ。
一部自治体でタブレット等の貸出し事業も
 自治体でも、こうしたオンラインの取組みが進む中で、高齢者世帯に対してスマホやタブレットを貸し出すなどの事業も見られる。たとえば、都内のある自治体では、65歳以上の区民に2年間無料でスマホを貸し出し、機器やアプリの活用を支援するという実証事業を行っている。タブレットを貸し出し、そのタブレットを本人の見守りにも活用するという事業を進めている自治体もある。

 課題としては、やはりスマホやタブレットの活用に慣れていない高齢者に対して、どのようなサポートを組み合わせていくかという点だろう。たとえば、感染リスクを避けつつ、訪問によってオンライン活用を支援する人材育成などが期待される。
参考:
田中 元(たなか・はじめ)
 介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。
 主な著書に、『2018年度 改正介護保険のポイントがひと目でわかる本』『《全図解》ケアマネ&介護リーダーのための「多職種連携」がうまくいくルールとマナー』(ぱる出版)など多数。
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