相続税対策で人気の暦年贈与、税制改革で見直される!?

浅野 宗玄
2021.09.06

政府が目指す「資産移転の時期に中立的な税制」
 平成27年に相続税の基礎控除額が引き下げられて以降、相続税の課税対象者が増加したことから、相続税対策として暦年贈与と相続時精算課税の生前贈与が活用されている。暦年贈与では、1年間に贈与される財産の合計額が基礎控除額の110万円以下なら贈与税がかからないため、多くの納税者が相続税対策として利用している。しかし、ここにきて税理士など税務関係者の間で注目されているのは暦年贈与の見直しだ。

 暦年贈与の効果が下がるような見直しが行われたらインパクトは大きい。ここにメスを入れる意向を示したのは与党の令和3年度税制改正の大綱だった。大綱は「諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」との考えが明記された。
諸外国に倣い、相続扱い期間を拡大?
 そこで、見直しの方向性としては、一つは暦年課税の基礎控除を廃止し相続時精算課税制度のみを残す方法か、もう一つは暦年課税の基礎控除を存続させつつ納税額を本来の相続税に近づける方法が考えられる。暦年課税の基礎控除の突然の廃止は国民への影響が大きいことから、可能性が高いのは暦年課税を諸外国の相続税に近づける方法だろう。具体的には、現在暦年課税の相続扱いとなる期間は3年以内だが、これを10年以内あるいは15年以内などに拡大するというものだ。

 実際、参考にするという諸外国ではより長い期間の贈与を課税対象としており、イギリスは相続前7年間、フランスは15年間、アメリカに至っては生前贈与すべてに相続税を課している。

 来年以降の税制改正では、こういった諸外国の制度を参考に相続扱いにする期間を長くすることによって、資産移転の時期に中立的な税制を構築するとともに、実質相続税と贈与税を一体化する方向で議論する可能性が高い。
税制改正を見越して生前贈与を早めよう
 現在はまだ改正の検討段階だが、仮に見直しが決定されるとしても過去に遡って適用することはないだろうし、経過措置を設けて一定期間を経て実施されると予想される。つまり、令和3年現在であれば、まだまだ暦年贈与を利用した相続対策はできることになる。ただ、生前贈与をしようと意図している場合は、今後税制の見直しがあることを念頭に置いて、時期を早めることを検討したほうがいいと思われる。
参考:
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト

1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に『住基ネットとプライバシー問題』(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍『生命保険法人契約を考える』
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.php

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